はじめに

アメリカの音楽市場が急激なV字回復を見せています。そして、新たな形で巨額の富を得るアーティストが増えています。

全米レコード協会(RIAA)が発表した最新の統計発表によると、2017年上半期のアメリカ音楽業界の売上は前年に比べて17%増加。約40億ドルとなりました。

まだ数字は発表されていませんが、下半期にも大物アーティストのリリースが相次ぎ、昨年を大きく上回る売上となる見通しです。


アメリカ音楽市場が再び成長

日本と同じようにCDの売上がピークだった1998年から徐々に減少を続けてきたアメリカの音楽市場ですが、2015年に底を打ち、以後は再び成長の動きを見せています。

拡大を牽引するのがApple MusicやSpotifyなどの定額制ストリーミング配信サービスの普及です。同発表によると、サービスの有料加入者数は、約3040万人に達し、2016年上半期の2020万人から約50%も増加。音楽業界全体の収益の6割以上をストリーミングサービスが占めるようになっています。一方、ダウンロード配信は19%、CDなどのパッケージメディアの売り上げは16%にとどまっています。

これらの定額制ストリーミング配信サービスの多くは、加入者が1ヶ月あたり1,000円ほどを支払うというモデル。厳密な数字は公表されていませんが、レーベル側には1再生あたり約0.4〜0.5円ほどが還元されると言われています。ヒットの基準は「売れた枚数」ではなく「聴かれた回数」となり、すでにレコード会社の収益もパッケージ販売よりもストリーミングが軸になりつつあります。

そういった構造の変化により、音楽のあり方も少しずつ変わってきています。

CD販売・DL配信よりもストリーミング配信へ

2016年にチャンス・ザ・ラッパーがリリースしたアルバム『カラーリング・ブック』は、CDの発売もダウンロード配信も行わず、ストリーミング配信のみで発表。しかし、長年アメリカでの総合チャートを発表してきたBillboardが、ストリーミングでの再生回数を指標に入れるようになったこともあり、アルバムはストリーミング配信のみの作品としては初の全米TOP10入り。グラミー賞も受賞し、新たな世代のスターとなりました。

そこからさらに状況は変化し、2017年のアメリカにはストリーミング配信のみで巨額の収益を得る若手アーティストが続出しています。

たとえば23歳の若手ラッパー、リル・ウージー・ヴァート。彼がリリースしたアルバム『Luv is Rage 2』からのシングル曲「XO Tour Llif3」は、米Billboard Hot 100の7位にランクイン。全世界で13億回の再生回数が記録されており、レーベル側には約5〜6億円の収益をもたらしました。アーティスト本人にも1億円以上の収入をもたらしたそうです。

22歳の若手ラッパー、ポスト・マローンも大きな成功を手にしています。11月に彼が発表した曲「Rockstar」はBillboard Hot 100で8週連続1位を記録。全世界で30億回以上の再生回数を記録し、レーベル側にも10億円以上の収入をもたらしています。

すでに海外の音楽産業においては「CDが売れない」と嘆く時代はとうに過去のものとなり、「CDを売らない」ビジネスモデルが確立されています。加えて音楽シーンの世代交代が進み、たった1曲で億単位の収入を得る20代のアーティストが続出しているのです。

(写真:ロイター/アフロ)

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