はじめに

経営が苦しかったはずの企業からの好調の知らせ

半年前まで苦境だと報道されていた会社の経営が、足元では楽勝に変わりつつある。たとえば牛丼3社。仕入れ先であるアメリカ産牛肉の価格は2年前と比べて半値近い水準に下落している。価格が下がったのは円高の影響に加えて、チャイナショックのおかげでお隣の中国がアメリカ産牛肉の買い占めを手控えるようになったためだ。

牛丼3社の売上高原価率はかつての円高デフレ戦争当時は35%近辺だったところから、2014年、15年の円安時には40%台前半にまで引き上がってしまい、業界最大手のゼンショーホールディングス(すき家)は「苦境に立たされている」とまで言われるようになっていた。

ところが原価率はデフレ時代に近いところまで戻りはじめ、結果としてゼンショーも採算が大幅改善し、今季の純利益は7割増える勢いだという。1ドル=100円の水準の円高が定着してきたため、これまで苦しいと言われた会社が急に息を吹き返すようになった。


ゼンショーに続き、ニトリも絶好調という報告

小売ではニトリHDも好調のようだ。今期の営業利益は過去最高の480億円を見込むという。ちょうど1年前の3~8月期は前年同期比売上がマイナスだったのに対して、足元の売上は前年比8%増と、苦境から一転して営業は絶好調だ。

ニトリも基本的に「お値段以上」の価値ある商品を販売する薄利多売業態である。中国などから開発輸入した家具や日用品が人気の源泉だ。当然のことながら為替レートで「お値段」が左右されるから、円安よりも円高の時期の方が消費者の満足は大きい。

円安で苦境だった2014、15年は新規出店で売上増を達成してきたが、それでも売上と利益の伸び率は頭打ちだった。ところが2016年に円高が来て、一気に既存店の業績が前年比で大きくプラスに転じ、利益に貢献するようになったわけだ。

一方で勝ち組リストに載っていた企業は不安

この円高基調、多くの人がこのまま定着するとみている。ないしはそれ以上に円高が進む、つまり1ドル=90円台に突入するとみているエコノミストが多い。

そうなってくると、アベノミクス以降の円安で株価を上げた勝ち組と、苦境に立たされた負け組の顔触れががらっと変わってしまう可能性がある。

これまで勝ち組とイメージされてきた企業は、

  • トヨタ、日産、デンソーなどの自動車
  • ファナック、DMG森精機のようなロボット
  • 資生堂、花王のような消費財
  • 中国人観光客の爆買いの恩恵をうける小売業
こういった円安メリットを最大限に生かし、アジアへの輸出で伸びる会社がもてはやされてきた。ところが円高で状況は一変し始めている。これから秋にかけて発表される上期の業績は各社ともかなり厳しいものになりそうだ。

1年前の勝ち組企業リストと負け組企業リストをひっくり返してみる

一方でこれまで負け組のイメージのあった企業はどうだろうか?
  • ゼンショー、日本マクドナルド、ワタミのような外食大手
  • ユニクロのようなカジュアルウェア
  • アメリカやヨーロッパの高級ブランド商品やその販売店
仕入れが外貨のため円安によってこれまで仕入れ値が極端に上がってしまった企業は、今、急速に息を吹き返しつつある。

こういった企業も為替予約などの事情から、円高メリットが本格化するのはこれから先。いい決算発表は秋以降になるだろう。逆にその時点までは業界全体で息を吹き返しているという情報はあまり広まらないのではないか。

となるとこの時期、大切なことは連想ゲームだろう。ブリヂストンの営業が芳しくないという記事を読んだら、他にどの会社がそうなっているはずだと考えるのか。すき家の決算がよくなりそうだというニュースを見たら、他にどの会社も同じように業績がよくなるはずだと考えるのか。

とにかく、この秋にかけ、これまでの好業績企業と苦境企業の顔触れががらっと入れ替わりそうなので、そこに注意が必要なのである。

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