はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は野瀬大樹氏がお答えします。

多忙な状況でも20代からできる資産運用について教えていただきたく存じます。今年、大学院を卒業して外資系のITコンサルティングファームに就職しました。同世代と比べて月給は高いのですが、ボーナスはなく、今後の昇給や雇用の継続性については実力や事業次第とあって、早期からの資産運用の重要性を感じています。


大学院時代から実施しているネット証券での株式投資は、研究が忙しいあまり売り時を逃し、ほとんど利益をあげられていない状況です。修士論文が忙しかった時期に、株価が大幅に下がったことは今でもトラウマです。現在も業務が忙しいため、なかなか投資と向き合うことができず、投資信託など、ほかの運用方法を考えています。


ただ、大手金融機関は手数料が高すぎる一方、手数料の安いネット証券は商品が多すぎて吟味する時間がありません。投資信託以外でも時間がない人にもできる運用方法があれば教えていただきたいです。よろしくお願いいたします。私の資産状況は以下の通りです。


【資産】株式:50万円(2銘柄)
【預金】50万円
【月収】手取り:約35万円(交通費別途支給、残業代は含まない)
【年収】額面:約500万円
【支出】貯金:5万円、投資:5万円、家賃:6万円、水道光熱費:1万円弱、通信費:5,000円程度、食費、交際費:5万円(ほとんど外食)
【その他】日用品:2万円、本:3万円、家電など:1万円から5万円 ※生命保険や学資ローンなどはなし
(25歳 独身 男性)


野瀬: 私も職業柄コンサル会社の方とよく会うのですが、とくに同世代には「出口戦略」に悩んでいる人が多いように思います。

20代のころからよい額のお給料を手に入れ、40歳前後になると、かなりの金融資産も持っている。でも昔と違って役員クラスまでの昇進は難しいので、いずれは会社を去らなければならないが、そうなるとお金が不安なため運用をしたいが激務なので時間がない。

このような悩みを抱えている人は、ご質問者の方以外にも多くいらっしゃいます。

私もコンサルタントの方ほどではないものの、それなりに仕事は忙しく、なかなか資産運用のための時間を作ることは困難でした。

また、個別銘柄の株を買ったり、FX投資をしたりすると、市況が常に気になってしかたがない(笑)。仕事中もついチェックしたくなる衝動に駆られたものです。そうなると業務にも響きますので、あまり頻繁にチェックしなくてもよい方法を心掛けたいですよね。

「時間がない人」向けの投資戦略

では、そんな「時間がない人」向けの投資について、私の経験からお話ししたいと思います。

■ 株式個別銘柄

基本的には長期保有目的の銘柄がよいと思います。私は時間のない方には、「配当利回りが高い」銘柄に投資する方法を勧めています。配当利回り2%以上のものを買って、あとは配当を待つだけの簡単な投資です。

ただし、どんな会社でもよいというわけではなく、歴史が長く有名な企業でビジネスの内容がよくわかる会社。そして自己資本率が40%以上で、PERが12以下のタイミングで買う、という手法を私はとっていました。

配当利回りが2%以上といえど、株価が下がってしまえば元も子もないのですが、上記の要件を満たす企業の場合、よほどのことがない限りは株価がダダ下がりすることはありません。

仮に一時的には下がったとしても、すぐに元に戻ることが多いです。劇的に儲かることはありませんが、負けにくい投資だと思います。

また、時間がなく売買のタイミングを逃しやすい立場である以上、配当を重視した投資に偏らせるのは悪くない方法だと思います。

もちろん、手に入れた配当を再び証券口座に入れる再投資を必ず行うことと、1年に1度程度は株価をチェックし、株価が大きく上昇していたら売却することも忘れないでください。

現在2銘柄をお持ちとおうかがいしていますが、今の資産規模だとそれくらいの分散が限界かなと思います。上記条件を満たす企業は少ないですので、あらかじめ50万円で1銘柄というイメージで、投資先の目星をつけておくとよいでしょう。

■ 投資信託

投資信託は、投資初心者や時間のない人に私がおすすめしている投資です。私が仕事で滞在するインドでも、駐在員でインドの積立投信をする方が増えてきた気がします。

投資信託は投資としての面白味はないですが、積立にすると自動的に投資が行われ、少額から分散投資が可能ですので時間がない方にはおすすめです。

まずは月1万円、2万円程度のものからはじめるとよいでしょう。毎月固定で支払うお金に対してはじめは「こんなにお金が差し引かれて大丈夫だろうか」と思いますが、慣れてしまうと気にならないものです。

投資を判断する時間がないからこそ“自動”で投資できる投資信託は利用したいですね。

■ FXを含む外貨

最近は為替の変動が激しすぎるので、個人的には外貨がらみの投資はおすすめしません。ちょっと目を離した隙に、大きな損を抱えてしまう可能性が高いからです。

もちろん、日本円が暴落するリスクもないわけではないですが、そのあたりは投資信託で少し分散できればよいかと思っています。

たまに「円は暴落する! 海外に口座を持って海外に直接投資しないと」と言う人がいますが、私は円の暴落リスクより、事情も知らない海外銘柄や不動産投資をするほうが、ずっとリスクは高いと思っています。

■ 不動産

実は最近、20代の頃を思い出して後悔しているのが不動産です。属性がよい、つまりローンがよい条件で組める時に不動産を買っておけばよかったなと思うのです。

投資目的でなくても、しっかり吟味して(ココが重要です)、中古の不動産を買っておけば、しばらく住んだあと、結婚などで引っ越しても人に貸して家賃が手に入るからです。

具体的には、「築10年以上・2部屋以上・駅から10分以内」の条件を満たし、人口50万人以上の都市であれば勝率は高いと思います。

もし店子が付かなくても自分で住めば損しないので、リスクを抑えることはできると考えられます。

この「実需&あわよくば不動産投資」のスタンスであれば、時間がない方でも十分に対応可能かと思います。

以上のことが私が考える「時間がない人」向けの投資の概要です。

ただ、40年ほど生きてきて思いあたった結論は、「20代は目の前の仕事に日々全力で取り組む」ということが一番の投資だということなんですけどね。

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