はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は野瀬大樹氏がお答えします。

年収2,500万円で税率が高いため、不動産投資などを行って節税をしたいと考えているのですが、どのような方法で、どのような項目が節税の対象となるのかを教えてください。例えば個人事業主として投資をして、減価償却費分に「自宅(賃貸)の一部を事務所費用として」「自家用車の一部を事務所使用として」など節税ができないか検討していますが、実現可能でしょうか?
(30代前半 独身 男性)


野瀬 :まずはじめに「不動産投資で節税」とありますので、このあたりを整理してみましょう。

不動産投資で節税するなら“損をすること”

「税金は儲けにかかるもの」という大前提がある以上、「不動産投資による節税」というものは原則的にありません。ただ、節税する方法があるとすれば、それは「(不動産)投資で損をする」ことです。

不動産投資の儲けは、以下の通り、給与や自営業の儲けと「合算」して税金を計算することになります。

(給与所得+事業所得+不動産所得)×税率=税金

そのため、『不動産投資で損をすると全体の税金が軽くなる≒節税』となるのです。

これだと税金が安くなっても意味がない! と思うでしょう。どんなに税金が安くなっても不動産で損をしているのですから。

ただ、このロジックのなかでも「得をする」やり方が2つだけあります。

(1)減価償却費により不動産で損をする


(2)「どうせ払っている費用」を不動産の「経費」として不動産で損をする

相談者の方のご質問のうち「減価償却費分の一部を事務所費用として」というのは(1)にあたり、「自宅(賃貸)の一部を事務所費用として」というのは(2)にあたります。

減価償却費は単なる計算結果であり、1円たりとも財布からお金が出るものではありません。しかし、経費には含めることができるので、この経費を計上すればお金を失うことなく、『経費増≒節税』ができるのです。

一方の自宅家賃についても、事務所として自宅を使おうが使わまいが、どの道払っているお金なので自分の財布が追加的に痛んでいるわけではありません。

だから、この自宅家賃を経費として計上すれば、こちらもお金を失うことなく、『経費増≒節税』ができるというわけです。

自宅家賃は経費にできる?

さて、問題はここです。「自宅家賃は経費にできるのか」という点です。

結論からいいますと、少し難しいです。理由は以下になります。

実は、2014年に税理士業界を騒がせた画期的な判例がでました。

自宅を事務所として利用していた個人事業の保険セールスマンが、自宅家賃を事務所経費として計上していたところ、すべて税務署に否認されて法廷での争いになったのですが、判決は税務署の勝ちだったのです。

自宅で仕事をやっている人というのはたくさんいるので、この判決には業界が「ええ!?」となったのですが、よくよく状況を見るとその理由が見えてきます。

この方、自宅家賃の約2/3を経費として計算していたのです。

自宅を家賃として計上できる要件は、誤解を承知で簡単に書くと「明らかに区分ができて」かつ、その部分を「事務所としてのみ」使用している場合なので、まあ「自宅のうち2/3を事務所として使っています」というのは少し変ですよね。

なのでこの判例は「自宅家賃の経費計上を完全にダメ!」とするものではなく、明らかに悪質だったケースに対する懲罰的意味合いがあったと考える方が自然だと思います。

これは減価償却費でも同様で、そもそも自宅関連費用を経費にすることができないというわけではありません。

それだとまるで、質問者の方も経費で落とすことができるように聞こえるのですが、どうしてそれが「難しい」のか考えてみましょう。

経費として計上するなら青色申告

それは、不動産投資という性質上、自宅の一部を「事務所としてのみ使用」という状況がなかなか想定しにくいからです。

私も不動産投資をやっているのですが、正直1ヵ月のうちにやる作業は「月初の家賃チェック」ぐらいです。ネットバンキングで確認して終わり。

なにやら専用の事務スペースが必要とは思えないですよね。なにか副業をやられていて、そのビジネスのために自宅の一室を利用するのであれば合理性があるのですが、やはり不動産投資だと難しいと思います。

仮にできるとすれば、ものすごく大規模に不動産投資をしているようなケースでしょうか。

たくさんの物件(たとえば1棟もののマンションを5件とか6件)を持っているなら、退去する人や入居する人も多いですし、マンションの管理状態をチェックする必要もあるでしょう。

そういった場合だと、自宅に不動産投資のためだけの事務所として利用している1室があっても不思議ではありません。

ですから、この場合、原則不可能。ただし大規模であればできる可能性はある……ということになるでしょう。

正直なところ、不動産投資でも自宅家賃を経費として落としている人は世の中に少なからずいるのですが(笑)。私も立場上あまりおすすめはできません。

そして、もし経費とする場合は「青色申告」にしておくのをお忘れなく。細かい話ですが、青色申告のほうが経費として認められる要件が少しだけゆるいからです。書類1枚でできるので、しっかり税務署に届出を出しておきましょう。

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