はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は野瀬大樹氏がお答えします。

質問が2つあります。ひとつは、20代の妻が投資に関して無関心、いや、むしろ、毛嫌いしていることです。資産は少しずつですが、確実に増えているのですが、妻は「いつどうなるかわからないことにお金を使うなんて。今、確実な現金があるんだから、そんなことしなくたっていいじゃない!」といった具合です。私が「老後のため」「余裕ある生活を送るため」などと必要性を説いたところで、まったく理解してくれません。わかってもらえるような方法はあるでしょうか?


もうひとつは、投資法の変更についてです。今まで株式投資を中心に行っていましたが、自身の年齢も考え、そろそろ不動産投資に切り替えようかと考えています。区分所有のマンションから始めようと思っています。資金として、現在の株式1,000万円をすべてを頭金にするのか。それとも株式を半分残して500万円程度の頭金にするのか。あるいは、ほかによい案があればアドバイスをお願いします。


また、現在は自宅マンションの住宅ローンも残っている状態です。不動産投資よりも、ローンの繰上返済に回した方がよいのでしょうか?
(40代前半 既婚・子供なし 男性)


野瀬: 私の両親も同じように夫婦間の“投資熱”が合わない夫婦です。

母は投資が好きなのですが、父は昔堅気で「そんなバクチをするんじゃない!」というスタンス。母が損ばかりしているのもよくないとは思うのですが(笑)、実はこの手の相談は非常に多いのも事実です。

喧嘩の原因は双方にある

世の中、喧嘩の原因はおおむね双方にあるものです。今回の原因のひとつは奥様側にあります。これは投資に対して勉強不足であるという点です。

ただし、質問者の方が直接説得・説明しても怒りが増幅するだけですので、投資の大切さを説いている著名な本を自然に読んでもらうとよいでしょう。

これは入門の入門でけっこうです。少しでもあやしさが出るとダメですので、少々古いですが『イヌが教えるお金持ちになるための知恵』あたりがよいかと思います。

そして、質問者側にも原因のひとつがあります。

というのも、奥様の言うことにも、ある程度の合理性があるからです。

今、十分なお金を持っているのであれば、目的によっては投資が「必要ない」可能性もあります。今回の場合は、「豊かな老後」「余裕のある生活を送るため」という目的について、まだ奥様にしっかり説明できていないのだと思います。

そのため、ここは質問者が「なぜ投資をしたいのか」、その理由を説明することが必要です。正直、「豊かな老後」「余裕のある生活」といっても、なかなかしっくりこないだけでなく、騙されていると奥様が思うだけなので、“金婚式には世界一周”“老後は海の見える家で”など具体的な話をつけたほうがよいでしょう。

節約も投資も、家庭内で失敗するのは「目的」を共有できていないからです。より具体的な目標を奥様に伝えることで理解を得られやすいと思います。

はじめての不動産投資で気になること

さて、ご質問には論点がいくつかあるようですので、ひとつずつ私の見解をお話しします。

1:全額を不動産に切り替えるのか、部分的にするのか

結論からいえば、株式を全額切り替える必要はありません。なぜなら株式投資と不動産投資の両方を行っていると、そもそもリスク分散になりますし、相場によっては株式投資の儲けを不動産投資に再投資したり、不動産投資から得られる家賃を株式投資に振り分けたりできるからです。

頭金の額は300~500万円ぐらいがよいと思います。属性(年収、勤務先など)にもよりますが、この程度の頭金があればなんとか区分所有の不動産投資をスタートすることはできるでしょう。

はじめての不動産投資ですので、比較的金額が小さいオーナーチェンジ物件が勉強にはよいと思います。

2:今の時期、不動産投資はタイミングとしてよいのか

そもそもの大前提ですね。場所にもよりますが、正直、今の不動産市況は少し加熱気味だと思います。つまり、割高の物件が多いように感じます。理由は簡単で、株高で利益を得た人が投資や相続目的で不動産を買いあさっているからです。皆、考えることは同じなのですね(笑)。

そのため、こういった市況では、あせらずじっくり掘り出し物の物件を探すのがよいでしょう。何個かよい物件に目星をつけて、不動産屋さんに「この物件が〇〇円以下で出たら必ず買います」と連絡しておく投資戦術でよいと思います。株式投資も不動産投資も焦りは禁物です。

3:住宅ローンの繰上返済を優先したほうがよいのか

さて、最後は住宅ローンの繰り上げ返済を優先すべきかどうかです。長期的には日本の金利は上昇すると言われているので、よい投資用の物件が見つからない場合は繰上返済したほうが得なように思えます。

ただ、私個人的には、よい投資先が見つかりにくい時だからこそ、「目に見えないものを大切にしたい」と思っています。

私自身も株式投資をしていたのですが、ある程度の含み益を得ても今は、「コレ!」というような次の投資先が、正直、なかなか見つかりません。こういった時は一見、投資に見えないようなものにお金を使うようにしています。

それは、しばらく会っていない友達のところに遊びに行ったり、ずっとやりたいと思っていたレジャーを体験したりすることです。

たしかに不動産投資も繰上返済も「お金」という数値面ではメリットがあるのですが、世の中それだけでは成り立っていないのもまた事実です。日常のふとしたビジネスのアイデアや新しい出会いが人生を豊かにし、それが結果としてお金に結びつくこともあるからです。

個人的には「よい投資先の不動産が見つからなければ繰上返済。ただし、それ以外のことにも少しお金を使う!」というのも悪くないと思います。たとえば、夫婦で少しリッチな温泉旅行に行って「余裕のある生活のよさ」を奥様に布教するのもいいと思いますよ。

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