はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は野瀬大樹氏がお答えします。

現在38歳でデザイン会社の経営をしています。年収は現状3000万円近くあり、預金が8000万円ほどあります。今まで、まったく資産運用をしておらず、保険などは節税のためにさまざまなものに入っているのですが、その他の不動産や株など、お金が増えるようなものはまったく持っていません。
最近、増やすための資産の持ち方に興味を持ちはじめ、ワンルームをいくつか購入し運用しようと思ってサイトや情報誌などを見始めていますが、なかなか踏ん切りがつかずにいる状態です。
今後、不労所得を増やしていきたいと思っているのと、同じく金融商品なども持ちたいと思っています。
このような状態ですが、どういった資産運用といいますか、ポートフォリオを作ればよいでしょうか。
全体的に手堅く増やしていけるようなものを中心にしつつも、ある程度のリスクがあるものも組み合わせていければと思っています。要領を得ない質問で恐縮ですが、ご教授ください。
(30代後半 既婚・子ども1人 男性)


現状の把握

年収3000万円かつ、30代後半で貯金8000万円とはすばらしい収支状況と資産状況ですね。お子さんも一人とのことですので、今後もお金で行き詰まる可能性は少ないと思います。

ただし、自営業だとお伺いしていますので、お体にだけには気を付けてくださいませ。

そんな状況からの「投資・運用」に関するご相談なので、目的は「老後資金」ではなく単純に「お金を増やしたい」というものだと思います。

そういった目的であれば、まとまったお金を定期預金にしておけば、それ以外の資産についてはある程度のリスクはとっていいと思いますので、以下、その点も踏まえて少し投資についての私の考えを述べたいと思います。

不動産投資について

「ワンルームマンションをいくつか持って」というご意見がまずありましたので、最初は不動産投資についてコメントしたいと思います。

結論から言いますと、よほどの需要が見込める場所以外「ワンルームのマンション投資」は少し難しいと思います。理由は簡単で、予想の通り、今後は需要が減っていくからです。

ワンルームマンションといえば、単身世帯や学生が住む場所ですが、今の若い人は昔と異なり設備の悪い、狭いワンルームを嫌います。また都内でさえワンルームマンションは過剰供給の状況にありますので、家賃の低下は避けられないでしょう。

そして家賃が安いのに、店子がすぐに引っ越しやすいワンルームマンションは個人的に投資には向かないと思います。18平米を割るような居住性の低いものの多くは、今後一棟まとめて改装され、ホテルなどになるでしょう。

不動産投資がしたいのであれば、ワンルームではなくもう少し広めの物件、1LDKや2DKへの投資がよいでしょう。

そして外してはいけない条件は下記となります。

  1. 駅から近いこと都市にもよりますが徒歩7分以内
  2. 築10-20年の中古物件であること

これなら単身者・DINKS・高齢者夫婦など幅広く住んでくれる人が多いですし、お子さんが将来住まわれてもよいでしょう。

築10年を越えればある程度価格は下がっていることが多いですし、最近世間を騒がせているような欠陥住宅かどうかの判別もできるからです。

そしてワンルームに比べて売ることも容易でしょうから、出口戦略も描きやすいです。質問者であれば属性もよいので融資を組むことも可能だと思います。

とにかく今後も融資を組んで不動産を増やしていきたいのであれば、最初の物件で良い査定が出る物件を買い・有利なローンを組む必要がありますので、慎重に選んでください。

今は全体的に相場も高いので焦る必要はないと思います。

株式投資や投資信託について

先述のように質問者の場合、ある程度リスクをとることができますので、投資信託だけでなく、株式投資を始めるのもよいと思います。

質問者は所得が高い(つまり税率が高い)ので、確定拠出年金によって運用をするのもよいでしょう。高い節税効果が期待できます。

ただ実際、今は株価も全体的に高いのでポジションを取りにくいと思います。とりあえずいくつかの通常の証券口座に加え、NISA口座をひとつ開いて、小さな金額から始めると良いかと思います。

口座を開くことから始めるのは、いざ「買いたい!」と思った相場が来たときに買えないのは損だからです。また、複数口座を開くのは証券会社によって取り扱っている投資信託が異なるからです。

具体的なポートフォリオの目標

質問者の諸事情(家族の年齢、就業の有無、持家の有無、居住地)が不明なので、いくらか誤解はあるかもしれませんが、いただいた情報から私が考えるポートフォリオの目安を示したいと思います。

初年度の資産面のポートフォリオ目標(不動産投資をしたい場合)

  1. 定期預金:5000万円
  2. 株式および投資信託:1500万円
  3. 不動産:1500万円

5000万円は今後持家を買うとき、自営業なので仕事がうまくいかなくなった時期のため、お子さんの就学のため、最終的には老後資金として残しておく目安にしましょう。

そして、残りの3000万円を株・投信、不動産に2分割する形でよいと思います(確定拠出年金含む)。

ただこれはあくまで目標であり、よい銘柄やよい物件が見つかればの話です。ポートフォリオを目標にして、買う必要もない投資物件を焦って買ってしまうのは本末転倒ですので気を付けてください。

よい投資対象が見つからない場合は、目的別に分けた銀行口座に積み立てておけばよいと思います。投資は焦ってする必要はないのです。

大事なのは、いい物件、いい相場に出会うまで、口座を開き物件情報を集めじっくりと機会が到来するのを待つことです。

これに加えて、毎月収入の余剰金を(2)と(3)のための資金として半分ずつ積み立てておけばよいでしょう。こうやってポートフォリオを2つに分けておけば、今後株価が暴落局面になっても、家賃収入からあがる現金を暴落した株式市場に投資することができます。

私のお客さまでも、一つではなく不動産と株式双方に投資をしている人は強いなと正直思います。相場に応じて、それぞれの資金を上手く入れ替えることができるので、どんな相場局面でも大崩れすることがないからです。

質問者も資産を豊富にお持ちですので、このようなポートフォリオを目指してみてはいかがでしょうか?

あと1点、最後に補足ですが、個人的経験からFXはあまりやらないほうがよいと思います。FXの相場は閉じることがありませんので、自営の人がFXをすると相場が気になって仕事が手につかなくなります(笑)。

私の個人的ポリシーですが、資産運用は「本業」と「投資」が両輪となって進めるものだと思っていますので、本業に差しさわりが生じやすいFXはあまりポートフォリオに取り込まないほうがよいかなと思います。

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