はじめに

民泊ビジネスに日本の大手企業が相次いで乗り出しています。今月には、リクルートホールディングス(HD)が民泊事業への参入を表明。楽天も昨年6月に参入を発表、今年3月から民泊物件の登録受付を開始する予定です。

リクルートは米Airbnb(エアビーアンドビー)と提携して住宅情報サイト「SUUMO」で、楽天は旅行予約サイト「楽天トラベル」で民泊の情報の提供を始めます。ネットとリアルの“橋渡し役”として存在感を放つ2社の参入によって、これから先の民泊ビジネスはどうなるのでしょうか。


SUUMOの空き物件にエアビーから送客

リクルートHD傘下でSUUMOを運営しているリクルート住まいカンパニーは1月17日、民泊仲介で世界最大手のエアビーと業務提携を発表しました。SUUMOに掲載している賃貸管理会社やオーナーに対して、賃貸物件の空き部屋を民泊として活用することを提案し、エアビーを通じて宿泊者を募集するというスキームです。

部屋の清掃や予約管理は民泊運営代行会社が担うので、オーナーには負担がかかりません。つまり、空き部屋が発生している間、オーナーはその部屋を民泊に提供することで別の形でお金を稼ぐことができるわけです。

個人で不動産経営をしている方には、この仕組みのうまみはよく理解できるのはないでしょうか。

不動産オーナーにとっては賃貸契約が解除されると、次の契約者が見つかるまで、せっかくの物件が平均して半年ぐらいは空き物件になってしまいます。その間、民泊で少しでもお金が入るのであれば、不動産オーナーにとってはとても助かることなのです。

不動産オーナーには恩恵が大きい

この仕組みがよくできているのは、それだけではありません。不動産オーナーにとって空き物件を民泊に提供するのは良いアイデアでも、実行するためにはいろいろと大変なことがあります。

そもそもベッドやテーブル、食器やタオル、テレビやインターネットなど民泊に必要な品々を空き部屋にセットするのは大変な負担です。購入費用がかかりますし、それでいて新たな賃借人が決まれば、民泊用の備品を撤去しなければなりません。

しかし、SUUMOを介せば、そういったリスクを回避できます。住宅情報サイトであるSUUMOには、毎日コンスタントに新しい空き部屋情報が入ってきます。家財道具一式をレンタルにして、賃借人が部屋から新しく空き部屋になった民泊用の部屋にどんどん移していけばいいのです。

楽天が選んだ“興味深い経営判断”

一方、楽天は不動産情報サイトのLIFULL(ライフル)と共同出資した新会社・楽天ライフルステイが民泊事業を運営します。ビジネスチャンスとしてはリクルートと同じ線が狙えることになりますが、楽天は興味深い経営判断をしています。

民泊情報をエアビーではなく、楽天トラベルに掲載するという点です。この方針はプロの目から見ると微妙な経営判断に見えます。民泊事業については、旅館やホテルなどの事業者がものすごく敵対視しているからです。

楽天ライフルステイのプレスリリースに書いてある「国内ユーザーは、『楽天トラベル』を通じて、日本のホテルや旅館、ビジネスホテル、ホステルだけでなく、民泊施設も選択肢の一つとして比較検討し、選ぶことができるようになります」という一文は、間違いなくホテル業界からの大反発を受けるはずです。

これは想像ですが、リクルートの旅行情報サイト「じゃらん」が民泊ビジネスに一切タッチしていないのは、こうした“大人の事情”をよく理解しているからでしょう。宿泊業界からそっぽを向かれたほうが失うものは大きいため、いくら民泊がブームでも、そちらに目を向けることはしないのです。

リクルートが楽天と別の道を選べた理由

そしてリクルートの場合、事業会社を分社化していることがここで役に立ちます。あくまで想像の域を出ませんが、じゃらんを運営するリクルートライフスタイルに対して、SUUMOを運営するリクルート住まいカンパニーは「君の会社はぜったい民泊に参入しないよね。だったらウチがやるからね」と、いとも簡単に宣言できるわけです。

当然、リクルートライフスタイルは持株会社であるリクルートHDの社長に「宿泊業界全体のために、なんとかアレを止めさせてくれないか」と嘆願するでしょう。しかし、「住まいカンパニーは不動産業界のために存在しているのだから、仕方ないだろう」と言われれば、それまでです。

そうなると、じゃらんとしては「海外からの顧客をホテルや旅館に送るために、もっとがんばる。一緒に住まいカンパニーの民泊に対抗していこう」とならざるを得なくなり、最終的にはじゃらんと宿泊業界は今まで以上に結束することになります。

その結果、宿泊業界から見れば「じゃらんはパートナー」「楽天トラベルは敵」という図式ができ上がります。そして、「今回の楽天の経営判断は本当に正しかったのか」という話になってしまうのです。

民泊バトルで不利な出方をしてしまった楽天トラベルと、有利なスタートを切ったリクルート。それぞれの先行きに注目したいと思います。

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