はじめに

景気拡大と人手不足が続く中、2018年の春闘交渉が本格化しつつあります。今回の春闘では、安倍晋三首相が3%賃上げ実現に強い熱意を示しています。「経済の好循環を回していくためには、今年3%の賃上げをお願いしたい」と、経済界に対し、具体的な目標を定めて賃上げを要請しています。

安倍首相は、お願いするだけでなく、税制面からも賃上げを後押しします。大企業で3%、中小企業で1.5%の賃上げを実施する企業に対し、法人税の実効税率を25%まで引き下げる優遇措置を導入しました。なお、優遇を受けられないと、実効税率は2018年度から29.74%となります。

本来、民間企業の自主性に任せるべき賃金に、異例の政治介入となります。はたして、安倍首相の悲願は成就するのでしょうか。


連合が2%しか要求しないワケ

折しも、景気拡大と少子化を受けて、労働需給は逼迫の度合いを強めています。厚生労働省が発表した2017年12月の有効求人倍率(季節調整値、求人数÷求職者数で計算)は1.59倍と、44年ぶり高水準に上昇しています。総務省が発表した同月の完全失業率(季節調整値)は2.8%と、実質完全雇用が続いています。

3%賃上げへの道筋が整ってきたように見えますが、実態は異なります。

連合(日本労働組合総連合会)が掲げる、2018年春闘の賃上げ要求水準は「2%程度」にとどまります(定期昇給2%を含めると、4%程度)。安倍首相が前のめりに3%昇給をお願いしているのに、当事者である連合が前年と変わらない2%しか要求しないとは、どうしたことでしょう。

連合の「2018春季生活闘争方針」によると、全体の賃上げ要求を引き上げないのは、格差是正への取り組みを強化するためとしています。大企業中心の賃上げとならないように、下請けを含めた中小企業の賃金底上げを図る方針です。また、非正規労働者の賃金や、企業内最低賃金の引き上げを目指しています。

雇用形態によって“まだら模様”

3%賃上げが難しい理由は、他にもあります。人手不足には、職種別・雇用形態別で大きな偏りがあります。人手不足が深刻な分野もあれば、今でも人が余っている分野もあるということです。それが一律の賃金引き上げに大きな障壁となっています。

職種別・雇用形態別の有効求人倍率を見ると、雇用のミスマッチが大きいことがわかります。

有効求人倍率が1.59倍と44年ぶりの高水準に達したといっても、それはあくまでも全体の平均を示しているにすぎません。内訳を見ると、給与が上がりにくい構造がよくわかります。

雇用形態別の有効求人倍率(季節調整値)を見るとパートが1.81倍と高いですが、正社員だけで見ると1.07倍と、わずかに1倍を上回る程度です。不足が深刻なのはパートやアルバイトで、正社員の不足が深刻というわけではありません。

一般事務職の賃上げは望み薄

さらに、職業別に有効求人倍率(実数、季節調整なし)を見たのが下表です。

この表を見ると、事務的職業(一般事務など)の有効求人倍率が0.49倍と、特に低いことがわかります。一方、保安(8.67倍)、建設・採掘(4.68倍)、サービス(3.75倍)、輸送・機械運転(2.57倍)は極めて高くなっています。

多くの人が働きたい一般事務職などの職種では十分な求人がない一方、人手不足が深刻な職種(保安・建設・介護・外食・運輸など)では求職者が少ない、いわゆる雇用のミスマッチが大きいことがわかります。

人手不足が深刻な職種で賃金が上がりやすく、人が余っている職種で賃金が上がりにくくなるのは、自明です。今年も正社員一律の賃上げが通りにくい状況が続く見込みです。

一方、不足している分野では、人材の囲い込みを進むと考えられます。パート・アルバイトの時給引き上げ、非正規労働者の正社員への転換は、一段と進むと考えられます。賃金レベルの低い職種で賃上げが通りやすく、高い層で賃上げが通りにくい状況となります。

そうなると、全体の平均で3%賃上げが実現するのは難しいと考えられます。2018年春闘で、連合が3%ではなく2%の賃上げを要求し、格差是正のための底上げを目指すのは、現実に根ざした戦略といえるかもしれません。

(写真:ロイター/アフロ)

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