はじめに

2月半ばにかけて米10年国債利回りが約4年ぶりの2.9%台に急上昇し、NYダウ平均株価も1,000ドル単位の上げ下げを繰り返す中、為替市場ではリスク回避を理由に“安全通貨”とされる円やスイスフランが全面高となりました。

この間、平常時ならばドル買い要因となりそうな強い米経済指標や米金利の上昇、円売り要因となりそうな黒田東彦・日本銀行総裁の続投による金融緩和継続期待などもありましたが、市場はこれらを材料視せず、ドル円も一方的なドル安円高が進むと、約1年3ヵ月ぶりとなる1ドル=105円台半ばまで下押す場面がみられました。

いったい市場に何が起きたのでしょうか。そして、このような動きは今後も続くのでしょうか。


混乱のきっかけは米金利上昇

今回の混乱のきっかけとなったのは、米金利の急上昇とされています。

そもそも米連邦準備理事会(FRB)は、1年以上前から物価や経済の先行きに自信を示し、今後数年間は年数回のペースで利上げを続けていくというメッセージを市場に送り続けてきました。

しかし、金利市場はこれに懐疑的で織り込もうとせず、米10年国債利回りは昨年後半まで低水準で推移してきました。リーマンショック以降長らく続く世界的な景気低迷と金融緩和の世界に安住しすぎたのかもしれません。

2017年末に米国で減税法案が成立し、1月から2月に発表された米経済指標や2017年10~12月期の企業決算も全般的に良好、物価や賃金も堅調さが継続する中、ついに水準訂正を強いられて前述の通り約4年ぶりの水準に長期金利が急上昇した、というのが今回の動きではないかとみています。

減税法案成立などによる財政悪化懸念もあるでしょうが、減税法案は昨年夏過ぎから成立に向けた動きが始まっていますし、そもそもポピュリズム(大衆迎合)的な政権は大衆受けの良い財政出動を好むもの。やや後付け的な感じも否めません。

金利水準のメドとしては、数年かけて短期金利はFRBが均衡水準としている2.75%、長期金利は名目成長率である4%強の水準を目指すとみられます。今後数年で見込まれる利上げ分を割り引けば、米10年国債利回りで2.7~3.2%は妥当な水準となりつつあると思われ、金利の乱高下は徐々に収まるのではないかとみています。

株式市場は割安水準に

2000年のITバブル崩壊や2008年のリーマンショックなど、株価の急落がその後の景気低迷のきっかけとなったことから、2月にみられた株価の急落が米経済の長期低迷の入り口になるのではないかとの懸念もあるようです。しかし、米国の各種経済指標は堅調ですし、株式のバリュエーションはバブル期にみられるような割高な水準とは程遠い状況です。

株価は通常、企業の「利益」「資産」「配当金」「発行株式数」と「株価」などから、「1株当たり利益」や「株価収益率」、「株価純資産倍率」や「配当性向」などさまざまな指標を算出してその株価の妥当性を探りますが、米国株のこれらの指標は全般的に過去の場面と比較して高い状況ではなく、逆に急落した場面では割安ともいえる水準となりました。

その結果、2月後半に米国株は反発に転じています。これまでの米国株の上昇は基本的に企業業績の伸びに沿ったものであることから、今回のような下落場面では各種株価判断指標が割安の領域に入ることで引き続き底堅い動きが継続すると考えています。

ただ、1月の米国株の上昇はややスピード違反の感もありました。基本的には良好な10~12月期決算を受けての上昇でしたが、1月だけでNYダウは一時7%もの上昇をみせました。1月末に決算発表が一巡したことで、株式市場は調整のきっかけを探していた面もあったかもしれません。

そのタイミングで急激な金利の水準訂正があったため、株価も急激な調整を強いられ、これに驚いて為替市場ではリスク回避の円高が進んだ、というのが2月の乱高下の正体であると考えています。

したがって、今回の乱高下は何かのバブルが弾けたというよりは、単なる「金利の水準訂正」と「株価のスピード調整」に過ぎず、早晩落ち着きを取り戻すとみています。

ドル円相場の見通し

では、ドル円相場はどうなるでしょう。前述の通り、2月に相場が乱高下する中でリスク回避を理由に、ファンダメンタルズ面の材料を無視して、一方的なドル安円高が進みました。結果として、日米金利差との乖離は拡大しています。

しかし、上記予想の通り今後市場が徐々に落ち着き、米金利が水準訂正による高止まり、米株が調整から一定の反発に入っていけば、リスク回避姿勢の後退やファンダメンタルズ格差、金利差などを評価しつつ、ドル円相場も反転に向かうとみています。年半ばにかけてはおおよそ1ドル=106~112円程度のレンジを中心としたもみ合い相場を予想しています。

(文:みずほ証券 チーフFXストラテジスト 鈴木健吾)

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