はじめに

米国の玩具小売り最大手であるトイザらスが3月15日、米国内の全735店舗を閉鎖すると発表しました。同社は半年前に日本の民事再生法に相当する連邦破産法11条の適用を申請していたのですが、結局のところ、再建の引き受け手が見つからなかったようです。

日本トイザらスの約160店舗は引き続き経営を続けるそうですが、それにしてもなぜ、米国最大手の玩具小売店がなくなることになったのでしょうか。その背景と今後への影響を分析します。


トイザらス全店閉鎖の衝撃

トイザらスといえば、米国のどこに行っても見かけるおもちゃの大規模小売店。ニューヨークで一番賑やかなタイムズスクエアの一等地にあった店舗など、全米の主要都市にはかならず存在していたお店です。

同社が転換点を迎えたのは2005年。インターネット通販や安売り小売りのウォルマートに押されて業績が停滞する中で、大手ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)に買収され、非上場会社になりました。

ファンドが構想する事業再生の戦略に沿って再成長と再上場を目指したのですが、最終的にその目的は達成できなかったようです。

このままでは負債4億ドル(約430億円)が返済できないという経営判断から、昨年9月に連邦破産法11条を申請。その後、企業再生のスポンサーを探してきたわけですが、結局買い手が見つからず、今回の全店閉鎖に至ったのです。

アマゾンが専業小売店を追い詰める

小売関係者にとって今回の破産劇が衝撃だった最大のポイントは「買い手が見つからなかった」という点です。小売業界にはさまざまなプレイヤーがいるのですが、誰ひとりとして「自分が代わりにトイザらスを経営すれば今よりも儲けてみせる」と考えた人がいなかったわけです。

米国の小売業界では、アマゾンエフェクト(ネット通販のアマゾンがさまざまな需要をのみ込むこと)による業績悪化が深刻です。昨年、家電量販大手のラジオシャックが経営破綻し、今度はトイザらスが全店閉鎖ということで、アマゾンと競合する専業小売店は今後、ますます将来性が危ぶまれるようになるでしょう。

ただ、トイザらスやラジオシャックの場合は、アマゾンエフェクトだけが要因ではありません。ウォルマートとも競合するのです。同社は全米最大の安売り小売りチェーンで、その莫大な仕入れ規模を背景に、他社が追随できないほどの低価格で業績を上げてきました。

同じ構造の経営破綻では、2016年にスポーツ用品小売り最大手のスポーツ・オーソリティも破産しています。いずれもアマゾンとウォルマートに挟撃されたことで経営が悪化したわけです。

普通の大手量販店はどうなる?

ここから先の展開については、小売業界では2つのことが心配されています。1つは、いよいよ専業領域に続いて普通の大手小売店の撤退や閉店が始まるかどうかです。

日本では、イトーヨーカドー、イオンなど大手の総合スーパーが軒並み業績を悪化させています。こちらはむしろ、ネット通販のアマゾンとユニクロのような専業組に挟まれての業績悪化です。

米国では、これまでのところ大型スーパーは必要な業態とされています。アマゾンとウォルマートの両方に挟まれた業態として、先にファッションや靴、ガーデニング、ペット用品など専業組の小売店が事業を閉鎖してきました。

今度は、いよいよ大手の総合量販店がアマゾンの影響で閉鎖する時代が来るのではないか、という点が注目されているわけです。

日本の大手スーパーは生き残れるか

もう1つの注目点は、日本の小売業態がどこまでアマゾンにやられてしまうのか、ないしは、持ちこたえることができるのか、です。

トイザらスの日本法人である日本トイザらスが経営する約160店舗は、今回の米国の判断とは関係なく、このまま影響を続けるようです。日本では少子化という逆風が吹いていますが、一方で安価なのにかさばるおもちゃの場合、通販の送料を考えると意外とまだリアルな店舗が競争力を持っています。

その競争力の源泉は、圧倒的な店舗の広さと品ぞろえです。そもそも同社が上陸した当時の日本は大規模小売店法があり、米国式の大きな店舗はなかなか開業できないという事情がありました。

そこで日米構造協議が行われ、非関税障壁である大規模小売店法を米国政府が撤回させた経緯があります。トイザらスが日本に開業したときには、当時のジョージ・H・W・ブッシュ大統領がわざわざ日本の店舗を訪問したぐらいです。

子供の数が減っているとはいえ、大量仕入れで価格が安いうえに、1ヵ所に行けば大抵のおもちゃが手に入るトイザらスは、日本では意外と生き残ることができるかもしれません。それよりも心配なのは、イオン、ヨーカドーといった既存の日本の大規模小売店がどこまで、今の長期低落傾向の中で持ちこたえられるかです。

もし日本の大手スーパーが「全店閉鎖を決断する」と発表する日が来るとしたら、それは今回の米国のトイザらス全店閉鎖のニュースが前触れとなるニュースだった、ということになるかもしれません。

(写真:ロイター/アフロ) 

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