2018.06.4

カルビーの名物経営者はなぜ「RIZAP」に移籍したのか

プロ経営者・松本晃氏はどんな人?

カルビーの名物経営者はなぜ「RIZAP」に移籍したのか

面白い人事発表が飛び込んできました。日本で指折りの「プロ経営者」と言われている松本晃氏が、ダイエットで有名なRIZAPグループのCOO(最高執行責任者)に就任するというのです。

ジョンソン・エンド・ジョンソンの日本法人社長からカルビーに転身して9年、今年の3月に退任した後の去就が注目されていました。松本氏はRIZAPで何をしようというのでしょうか。


日本屈指のプロ社長の転身

9年間カルビーをプロ経営者として経営し、業績を向上させ、今年3月に退任したばかりの松本氏。フィットネス事業などを展開するRIZAPグループは5月28日、同氏がCOOに就任することを発表しました。

日本を代表するプロ経営者はカルビーでの成功の後、いったいどうするのだろうとその去就が注目されていましたが、RIZAPグループというまったく違う業種のトップに就任するというのです。

そもそも、松本晃氏とはどんな経営者なのでしょうか。2009年、同氏はジョンソン・エンド・ジョンソンの日本法人社長からカルビーの経営者に転身しました。就任の際には「悪しき文化をぶっ壊す」と言い放ち、カルビーの変革を宣言しました。

当時のカルビーはオーナー企業であり、大企業であるにもかかわらず、非上場企業でした。「ポテトチップス」という強い商品を持っていることから、そのまま創業家が経営を続けていても、そこそこの業績は上がっていったと思います。

しかし、創業家自身もそのことに危機感を感じていて、あえてプロ経営者と呼ばれる松本氏を招聘したのです。

カルビーをどのように成長させたのか

松本氏がカルビーに着任してまず行ったことは、コーポレートガバナンスの導入です。これは当初から話し合いがついていたことだと思いますが、創業家には経営から離れてもらい、普通の大企業で普通に行われている、組織による経営手法を持ち込んだのです。

そうすることで創業家のトップが老害といわれるようになり、後継者が迷走するようなリスクを抑えることができます。組織の中で育ち、力量を示した人物が次のトップになる。そういった創業家リスクのない会社にカルビーを変えることから着手しました。

次に経営の観点では、これも欧米企業で当たり前に行われているコスト管理、利益管理の導入です。経営計画をしっかりと立てて、製品のコストが常に経営しやすい範囲内に収まるようにしていく。それまでは経営者の感覚で行ってきた設備投資も、工場の稼働率、キャッシュフローといった経営指標を管理しながら、合理的に判断をする。

そういった仕組みを導入していった結果、工場の稼働率も上がり、カルビーのスナックはさらに適正に利益が上がる商品となり、結果として競争力が上がっていったのです。

さらに、「フルグラ」のような健康食品という新しい分野を育てることにも成功しました。このような手腕によって、松本晃氏の就任期間で、カルビーの売上高は1.7倍に増えたのです。

プロ経営者の次のキャリアの意味

今年3月、松本氏がカルビーを退任することを発表した背景には、彼独特の人生観があったようです。要するに、人生の中でやりたいことをあと何回できるかを考えながら、自分の人生設計をする。これが松本流のキャリアプランだというのです。

ジョンソン・エンド・ジョンソンの社長を9年、そして偶然だといいますが、カルビーの社長も9年務めました。今年70歳の松本氏としては「第一線で手腕を振るえる機会はあと1回分だけ」と考えたとしても、不思議はないでしょう。

では、なぜRIZAPグループなのでしょうか。同社は40歳の瀬戸健社長が創業したベンチャー企業で、健康食品の販売からスタートし、「結果にコミットする」フィットネスジムの経営でブレークしました。

瀬戸社長の経営の面白いところはここからで、フィットネスジムで得た資金を元に、次々と不振企業のM&Aを始めます。

サンケイリビング新聞社やぱどのような広告メディア事業、ジーンズメイトなどのアパレル企業、イデアインターナショナルやパスポートといったインテリア雑貨の小売業、SDエンターテイメントのようなアミューズメント事業の会社、そして日本文芸社のような出版社と、買収した企業は分野も強みもまちまちです。

RIZAPと松本晃氏がフィットする理由

分野や業種が異なるとはいえ、RIZAPが買収した企業には1つの共通点があるようです。これまで価格競争で大手企業と戦い、苦戦をしてきた会社という点です。

ユニクロの台頭に苦しむジーンズメイト、ダイソーやキャンドゥなどの百均ショップの影響で客足が奪われてきたパスポート、スマートフォンの無料メディアに押されて不振の雑誌など。そこから脱出するためには、競争の軸を「価格」から「価値」へと変換させなければいけません。

その成功例が「結果にコミットする」RIZAPのビジネスモデルだとすれば、その考え方をグループ会社に移植することで、不振だったグループ企業が再生できる可能性が十分にあります。

瀬戸社長の良い点は、こういった壮大なプランを実現するための人材を集める力にあります。RIZAPが注目されるのは、現在さまざまな会社から同社に集結している優秀な人材たちです。

では逆に、RIZAPグループには何が足りないのでしょうか。オーナー企業にはない、「組織で人を育て、育った人材が組織を運営する大企業の経営手法」です。そしてそれは、松本氏がプロ経営者として一番得意とするコンピタンス(圧倒的な強み)でもあるのです。

今回の人事で最も注目すべきことは、松本氏がRIZAPグループの会長職ではなく、COOのポジションを選んだことです。上がった人として上から指導をすることを選ぶのではなく、現場で直接人に指示を出して人と組織を育てるポジションを選んだのです。

これは注目すべきチャレンジです。プロ経営者の力で、RIZAPグループという企業がオーナー企業から強い組織運営ができる大企業グループへと生まれ変わることができるのでしょうか。非常に面白いことが始まることを予感させる人事です。

(写真:ロイター/アフロ)

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