はじめに

国内の自動車7社の2018年度の研究開発費が過去最高になりそうです。その規模は合計で約3兆円。トップのトヨタ自動車の研究開発費は1兆0,800億円と単独で1兆円を超えます。自動車業界に何が起きているのでしょうか。


8年間で1.5倍に膨張

2010年度には2兆円に届かない水準だった国内自動車メーカーの研究開発費。それが8年後に1.5倍の水準まで膨らんでおり、この数年間で飛躍的に増えていることがわかります。

研究開発費が増加している背景には、自動車が大きな変化を迎えていることがあります。第一にパリ協定の結果、ガソリン車の販売が欧州では2020年代に終了します。そのため、電気自動車への移行が待ったなしの状況です。

次にIoT(モノのインターネット)が製造業のキーワードになっているように、今後はすべての自動車がインターネットにつながるコネクテッドカーに進化するという変化も起きます。つながることでどのようなメリットを出していくのか、自動車各社が頭をひねるべき新しい事業機会です。

そして、もう1つの大きな変化が自動運転。人工知能とミリ波レーダー、赤外線センサーを組み合わせた新しいタイプの運転システムの開発が急務です。

このような変化が同時に起きていることで、生き残りをかけた研究開発費は増加の一途をたどっているわけです。

1兆円でも少ないかもしれない?

では、そのような変化の中でトヨタの研究開発費の1兆0,800億円というのは水準としてはどうなのでしょう。実は、トヨタの研究開発費は少なすぎるのではないかという懸念が起きています。

世界勢でいえば、独フォルクスワーゲンが1兆5,000億円と、水準としてはトヨタの1.5倍弱の研究開発投資を行っています。これは自動車各社の最高額です。

ディーゼルエンジンの不正で一頓挫したフォルクスワーゲンですが、世界市場の中でもいち早く脱ガソリン車化される欧州市場において負けるわけにはいかないという事情があるわけです。

しかし、そのフォルクスワーゲンですら、かなわない企業群があります。それがIT大手です。

グーグルの持ち株会社である米アルファベットの研究開発費は年間1兆8,200億円。アマゾン、マイクロソフト、アップル、フェイスブックといった米国企業は、それぞれ1兆円を超える研究開発費を人工知能に投下しています。人工知能への巨額投資という観点では中国勢も大きな脅威です。

さらに同国には、イーロン・マスク氏が率いるテスラモーターズや、配車アプリ最大手のウーバーといった自動車領域の新興企業がいます。それぞれが株式市場から巨額の資金を調達することで、自動車市場におけるコア技術を自動車各社に先行する形で手に入れようとしています。

後れを取る既存の有力メーカー

これに対して、トヨタ以外の自動車各社は規模的に研究開発費の金額で対抗するのは難しい水準です。国内2位の研究開発費を投下するホンダがグローバル勢との比較ではギリギリの水準で、それ以外の自動車メーカーは数千億円の下のほうの水準でしか投資できていません。

日産の場合、日産・ルノー連合として研究開発投資を評価すべきなのかもしれませんが、カルロス・ゴーン会長がグループを退任するというニュースもありますし、その延長線上でこれまでのような密な関係を徐々に解消するという報道もあります。そう考えると、少ない研究開発費で自動車業界の大変化に対応できるかどうか、心配になってきます。

実は日本勢以上に心配なのが、米国のビッグ3です。リーマンショック以降、業績が悪化する中で、研究開発投資では同じ国内のIT企業群にまったく歯が立たないという状態です。最大手のゼネラルモーターズですら、研究開発費は8,000億円。ソフトバンクグループから2,400億円の出資を受けて、この金額です。

自動車の進化のキーワードの中で、コネクテッドカーと自動運転はどちらもITのキーワードです。だとすると、このまま自動車各社はグローバルなIT大手に重要なテクノロジーを押さえられてしまう危険性が出てきそうです。

必要なことは「仲間づくり」

そうならないためにトヨタの豊田章男社長が呼びかけるのが「仲間づくり」です。1社1社が競いながら研究するのではなく、連合を組んで分担して研究をしていこうという考えです。

たとえば、部品メーカーのデンソーやアイシンと一緒に研究開発をする。これはどちらの部品メーカーもトヨタグループなので当然かもしれませんが、その枠組みにSUBARUが参加をするそうです。1社1社の規模でいえばグローバルなIT大手にかなわなくても、自動車産業のすそ野は非常に大きいものです。

さらには、電池の開発ではパナソニック、モーターの開発では日本電産など、必ずしも既存の自動車業界という枠組みのプレイヤーではない大企業も研究開発では同じ方向を向く仲間として当てにすることができます。

さらにはNTTドコモやau、ソニー、NEC、富士通といった異業種にとっても、自動車業界の研究開発は自社の未来のビジネスとは大きな関係があるものばかりです。

そう考えると、豊田社長が言うとおり、日本は日本全体での「仲間づくり」をすることで米国や中国のIT勢に対抗する。そのような取り組みが必要だということではないでしょうか。

だとすれば、自動車国内7社の研究開発費合計が3兆円というのは、あくまであるべき姿のごく一部なのだと考えるべきニュースなのだと思います。

(写真:ロイター/アフロ)

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