はじめに

先週から今週は、日本銀行の金融政策が久し振りに注目されました。事前に政策内容変更に関する観測記事もあったこともあり、長期金利や金融株、日経平均構成銘柄などに動きが見られています。

しかし、政策変更を発表した7月31日当日の動きと翌8月1日の動きが逆になるなど、反応が複雑です。結局どうなるのでしょうか。改めて整理したいと思います。


日銀は何を変えたのか

今回の変更内容はかなりテクニカルな微調整です。そもそも、ここ数年の日銀の金融政策は、具体的な経済効果よりも市場の期待値に働きかける要素が強くなっており、“金利を●%下げるとGDPが●%押し上げられて、消費者物価が●%上がる”というような直接的な効果が見えにくくなっています。結局何が変わるのかを落ち着いて見ることが大事です。

日銀は今回、現在の金融緩和策を当分の間、維持するとともに、物価上昇目標の達成時期を先送りしました。改めて今の低金利政策が長期化することを明言したことになります。そして、短期金利の誘導目標(-0.1%程度)を維持する一方で、長期金利の誘導目標(-0.1%~+0.1%程度)については、変動幅を±0.2%まで許容するとしました。

さらに、年間6兆円ペースで買入れているETF(上場投資信託)について、現在2.7兆円をメドとするTOPIX(東証株価指数)連動型分を4.2兆円に増額し、TOPIX、日経平均株価、JPX日経400の3つに分散して買い入れる部分を3兆円から1.5兆円に減額するとしています。

長期金利:実は変わらない

“上限0.1%が0.2%に引き上げられた”と解釈するのは間違いだと思います。保有残高が年間80兆円ずつ増加するペースで長期国債を買い入れる政策は維持されています。金融市場に直接的に与える影響は変わらないはずです。

日銀の目的は別にあると考えられます。政府が発行済みの国債残高は5月末時点で961兆円ありますが、このうち459兆円を日銀が保有しています。2013年4月の大規模緩和の実施直前に当たる同年3月末の保有額は78兆円でしたから、ものすごい増え方です。結果として市場に流通する国債が減少しており、市場で売買が成立しない日が出始めています。

国債は国の借金ですが、金融機関同士の資金のやり取りの担保としても利用されており、各金融機関は一定額の国債を日銀に預ける必要があります。皆さんがコンビニATMで現金を引き出す場合、手続きした銀行に一時的に立て替え払いが発生しますが、そうした場合の担保としてお互いに国債を日銀に預けておくのです。

ところが国債を市場から自由に調達できないと、普段の金融取引に支障が出る可能性があるのです。そのため、日銀は毎月の買入れ額に変動を持たせることにして、市場に流通する国債が少ないときは買い入れを回避することも選択肢に入れることにしました。

その結果として、長期金利の変動幅が少し大きくなっても仕方ないと判断したということです。でも、いずれは買い入れを再開して、長期金利を0%近辺に誘導することには変わりはありません。

為替レート:これも変わらない

外国為替レートは、基本的には2国間の金利差で決まります。景気の差が金利差に表れ、金利の高いほうの通貨が買われる=高くなります。2013年以降、日銀の金融緩和により円金利が低下したことで、欧米との金利差が広がり、金利の低い円が売られて円安となりました。

今回の政策変更では、金利水準の誘導目標そのものは変わりません。ということは、欧米との金利差は開かないことになります。今回は、為替レートに動きはなさそうです。

もちろん、米国の利上げ動向や欧州の金融政策等に変動があった場合には、為替水準に変化が出るでしょう。紛争や通商摩擦などの“心配事”のリスクが高まると、円が買われて円高になる可能性もあります。しかし、日銀政策を理由に動くことはないとみています。

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