はじめに

2018年も3分の2を経過し、年末まで残り3分の1となりました。この先の株式相場が上下どちらに向かうのかは、依然として不透明な状況です。

最近の世界の株式市場では、特定の株価材料に対して同一方向に動く相関性が高まっていると判断されます。そのため、共通の悪材料に対しては、国際分散投資がうまく機能しないケースもあるかもしれません。

このような相場環境で、相対的に魅力的な株式市場はどこなのでしょうか。グローバル市場のファンダメンタルズから確認していきます。


米国株は好業績と金利安定で上値を追う

直近で米国株は最高値を更新しています。トランプ大統領による不規則発言など、不透明要因を抱えながらも米国株が堅調に推移するのは、確固たる企業業績の裏付けが存在するためと解釈されます。

4~6月期のS&P500ベースの業績は、前年同期比の増益率が25%近くに達しました(8月24日時点、トムソン・ロイター調べ)。1~3月期に記録した26.6%増益には及ばないものの、それと遜色ないレベルでの着地は十分、好決算と呼べる内容です。

主役を担うITセクターの決算は、一部企業の見通し悪化で、市場の不安を誘う場面もありましたが、対象企業の9割が市場予想を上回る決算を発表し、実績はまずまずの着地であったといえます。ITセクター全体で見た利益の市場予想からの上振れ度合いは7%ポイント弱と、過去2年の平均的な水準で、決して悪いイメージはありません。

S&P500ベースの増益率は7-9月期と10~12月期も20%を超える見込みで、18年通年の増益率は25%程度に達する模様です。そして、18年に増える利益の絶対額に対し、ITセクターの占める割合は約4分の1と大きく、引き続き同セクターが牽引役を担う構図となっています。

米長期金利の上昇加速が意識され始めた2月初めから半年が経過し、この間に政策金利は2回引き上げられましたが、長期金利はほとんど水準を変えていません。年内にあと2回の利上げがコンセンサスとなっているものの、それでも長期金利の上昇は、物価の安定などを背景に限定的なものにとどまる可能性があります。

その結果、予想PERに大幅な切り下げが生じなければ、利益が上積みされていく分だけ株価上昇の余地が広がりそうです。米国株への目線はあくまでも上向きで臨みたいところです。

英国・欧州株は強弱材料が対立

一進一退の値動きを繰り返す英国・欧州株は、8月に入ってからはやや軟調に推移しています。地理的に近いトルコに対する不安が、株価の上値を抑えている面があります。米国との通商問題では、交渉開始で合意を取り付けたものの、市場を覆う霧は完全には晴れていません。

4~6月期までユーロ圏では21四半期、英国では22四半期連続のプラス成長が続いていますが、米国への対応を誤れば、連続記録が途切れる可能性もあるとの警戒感が広がっている模様です。

しかし、それと同時に進む通貨安は外需系の多い欧州企業の業績にはプラスに作用する面もあるとされ、貿易摩擦の影響には一長一短がある様子がうかがえます。業績の堅調な推移が想定されている英国・欧州株のバリュエーションは、予想PERが16年のBrexit直後以来の(もしくはそれ以上の)低水準で推移しています。そのため、割安感からくる押し目買いのサポートがある程度期待できるかもしれません。

強弱それぞれの材料が対立する英国・欧州株は、上値の重さが意識されそうですが、逆に下値の堅さを実感する場面もありそうです。基本的には「ニュートラル」なスタンスが妥当と考えます。

中国株の調整一巡までエマージング株は様子見

エマージング株反転のカギを握るのは、引き続き中国株ということになるでしょう。中国株は米国との貿易摩擦激化の影響を受けて、8月以降も大きく水準を切り下げました。8月17日の上海総合株価指数は2,688ポイントを付け、2016年1月以来の水準まで株安が進みました。中国景気の先行きを不安視する流れが、中国株の大幅調整を促したと解釈されます。

今回の貿易摩擦では、強硬姿勢を強める米国に対して、中国側はあくまでも受け身の対応に徹していますが、必要な対抗措置を講じるのと同時に、財政政策の積極化を打ち出しています。景気刺激策の具体的な効果が現れるのに少なくとも半年はかかると見られ、そうした材料を早めに織り込みにいく株式市場では、株価下落に歯止めがかかってもおかしくありません。

しかし、これから米中間選挙までの約2ヵ月間は、トランプ政権からの風当たりがさらに強まることも予想されます。目先は「中国側の最終的な譲歩が想定以上の規模になる(すなわち、中国経済へのダメージがより大きくなる)」との見方が、中国株の本格的な反発を妨げる可能性を否定できません。

中国の影響を強く受ける周辺のエマージング諸国も含め、エマージング株への投資には、慎重なスタンスが求められます。

日本株の値動きのカギは中国株の安定

最近の日本株は米国株との連動性はもとより、中国株への連動性を高めています。貿易摩擦が激化する中での軟調な中国株の値動きが、ときに日本株にネガティブに作用していると理解できます。

裏を返せば、中国株がひとまず安定を取り戻せば、少なからず、日本株にはポジティブに作用すると考えられます。また、もともと連動性の高い米国株が今後も堅調に推移するとの見通しは、日本株にも支援材料となります。

さらに、日本独自の材料としては、堅調な業績拡大を挙げることができます。日本の4-6月期決算を振り返ると、大和証券が集計対象とする主要企業200社(大和200)ベースでの経常利益は、前年同期比で19%増(通信を除くと14%増)となりました。

米国には及ばないものの、増益率が10%を超える決算は、十分「好決算」との評価に値します。16年夏の水準にまで沈んだ予想PERがある程度回復することを前提に、目先の日経平均株価は23,000円を目指す展開を予想しています。

(文:大和証券 投資情報部 チーフ・グローバル・ストラテジスト 壁谷洋和)

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