はじめに

「人生100年時代」。日本人の平均寿命が延びる中、“健康上の問題なく日常生活を送ることができる期間”である「健康寿命」を延ばすための方策が着々と進められています。

元気に過ごす期間が延びると必然的に必要となってくるのが、お金です。延びる寿命に応じた資産はどれくらいなのでしょうか?“金銭上の問題なく日常生活を送ることができる金額”、すなわち、資産の「健康寿命」について考えてみましょう。


資産の「健康寿命」はどれくらい?

生命保険文化センターの調べでは、ゆとりある老後を送るのに必要な資金は月35万円程度が必要とされています。65歳で退職してから85歳まで過ごすには、夫婦で8,400万円、100歳までということになると1億4,700万円が必要と試算されます。

老後に備えて、これだけの資金を手当てするためにはどうしたらよいでしょうか。その方策には大きく2つあると考えられます。1つは、体の「健康寿命」を延ばして定年後も働き、収入を増やすこと。もう1つは、資産を運用することによって資産そのものを増やすことです。

資産形成にはいい銘柄をバランスよく

資産運用には様々な選択肢があります。その1つである株式投資を例にみてみます。運用成果を上げるためのポイントは、(1)強い企業を選ぶこと(2)中長期の投資スタンス(3)分散投資、の3点です。

「人生100年時代」に備えるという目的から、投資の回収期間を5年、10年、あるいはそれ以上といった長期の観点からとらえる必要があります。したがって、短期的な株価変動の中でのタイミングに固執するよりも、投資対象を見極め、異なった特徴をもつ企業の株式を複数もち、リスク分散を図ることが大切です。

株価は基本的には企業業績の動きに収斂していきます。短期的なムードや材料に流されず、中長期的に業績を拡大させていく強い企業、すなわち「グローバルでみたモノやサービスの競争力・ブランド力」のある企業に注目するのが投資の王道です。

では、グローバルの観点での強さをもち、異なる特徴を持つ企業の例として、日本人にもなじみのある米国企業を例に見てみましょう。

【圧倒的な強さ】アマゾン・ドット・コム

競争力の高さという観点では、米アマゾン・ドット・コムが挙げられるでしょう。同社はネット通販の最大手ですが、第三者に販売の場を提供する「マーケットプレイス」事業も拡大させています。加えて、クラウド市場においても力強い成長を続けており、3割のシェアを誇るなど、同社の存在感は一段と増しています。さらに広告市場にも事業領域を広げ、消費者の購買行動の情報を提供できる魅力を広告主に訴えることで、急成長を見せています(下図)。

現在売上が20兆円を超える巨大企業に上り詰めていますが、依然“成長企業”との位置づけは変わっていません。巨大なプラットフォームを活かして、高成長分野における強さを増している点は、同社の大きな魅力であり、株価の上昇は業績拡大の勢いを素直に反映しているととらえることができるでしょう。

【景気変動の影響を受けにくい】ジョンソン・エンド・ジョンソン

アマゾンの位置するITセクターは高成長が見込めるからといって、同じセクター内の企業ばかりに投資していては、リスク分散が図れません。様々なジャンルからの銘柄ピックアップが必要です。例えば、景気変動の影響を受けにくいディフェンシブ銘柄として、ジョンソン・エンド・ジョンソンが挙げられます。

同社は世界最大級の総合ヘルスケア企業です。対象とする消費財マーケットは景気にも左右されにくく、底堅い拡大が期待されます。着実な業績動向を踏まえると、株価の動きに派手さはないものの、安心感のある企業と考えられます。

【景気敏感】JPモルガン・チェース、キャタピラー

一方、景気変動の影響を受ける代表は、JPモルガン・チェースのような金融業が挙げられます。あるいは、キャタピラーのように建設投資やエネルギー開発投資などに左右される建設機械メーカーも、金融とは違った意味での景気敏感企業です。

両社は、景気変動の波を受けながらも、それを乗り越えてきた巨大企業です。景気後退期では株価が下がりやすい面がありますが、拡大局面における上昇幅も大きいという特徴があり、中長期的に世界経済が拡大していくと考えると、株価上昇余地の大きい銘柄と考えられます。

日米の金融資産の動きからうかがえる格差

投資に対する日米のスタンスの違いが金融資産の動きにも出ています。米国は退職後を含め、現役世代から資産形成を行っていることから、退職世代の金融資産は過去20年で約3倍に増加しています。一方、日本の家計の金融資産は過去20年間伸びておらず、直近では退職世代などの保有する世帯当たり金融資産は米国の半分以下となっています(下図)。

こうした日米の金融資産の豊かさに格差が生じてきている状況からも、早い時期から投資を開始し、長いスタンスでじっくり保有することの必要性が示唆されているように思います。

(文:大和証券 投資情報部 花岡幸子)

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