はじめに

今年の夏は例年以上に大変な夏でした。各地の猛暑、平成30年7月豪雨(西日本豪雨)、関西空港に被害をもたらした台風21号。そして北海道胆振東部地震。

メディアでは各地の被害や復旧に関する報道が続いていますが、株式市場では関連銘柄、特にインバウンドへの影響が注目されそうです。実際の影響はどうなりそうか、考えてみたいと思います。


訪日客数急減速も昨年は上回りそう

観光庁の統計によると、2017年の訪日外客数は前年比19%増の2,869万人でした。2018年も6月までは年率15%ペースの増加が続いていましたが、7月5.6%増、8月4.1%増と急減速しています。9月はさらに台風21号により関西空港が閉鎖されましたし、北海道地震もありました。関西空港はアジアからのLCCが多く発着するインバウンド比率の高い空港ですし、北海道はインバウンド観光客にも人気の地域です。さらなる鈍化が予想されます。

また訪日来客数ですが、8月までの累計数は2,130万人で昨年比239万人増です。この数字から計算すると、9月から12月が4カ月連続で前年比30%減ペースに急減速しない限りは昨年実績を上回ることになります。

全国展開なら影響は少ない可能性

ちなみに国土交通省の統計によると、関西空港経由の訪日客は日本全体の1/4前後、北海道訪問者は10%未満です。この全てがいなくなる訳ではないですし、東京など他地域への訪問が減ったという話も聞きません。しかも、関西空港の発着便数は9月21日にはほぼ通常ペースに復旧しています。北海道での影響は長引くかもしれませんが、『全国合計の訪日客数が30%以上の減少となり、それが数ヶ月続く』ということは無いように思います。

インバウンド関連銘柄と言うと、百貨店やドラッグストア、家電量販店などの小売業、化粧品、市販医薬品や日用品、鉄道や航空会社、旅行・レジャー産業などが挙げられますが、ほとんどが全国展開しています。そして圧倒的に多い訪問地である首都圏は自然災害の影響を受けていません。そう考えれば、影響が少ない企業が多そうです。

また小売業や関連メーカーは、アジア各国での海外販売が順調に伸びている企業が多いですし、越境ECと呼ばれる海外に直接販売するネット通販にも力を入れています。これらは日本の自然災害とは関係なく売上増加が続くと考えられます。

インバウンド売上比率にも注目

8月の全国百貨店売上高におけるインバウンド売上比率は6.3%です。ドラッグストアもインバウンド売上比率が高い業界ですが、例えば大手のドンキホーテの直近四半期実績は10%弱です。北海道に店舗が多いツルハの場合は同比率が5%以下とされています。

化粧品や日用医薬品もインバウンド客に人気の商品ですが、インバウンド売上比率はどこも10%弱で、海外売上の方が大きい企業がほとんどです。もちろん全国で販売されている訳ですし、百貨店やドラッグストアと同様に影響は大きくないように思われます。

鉄道もインバウンド比率があまり高くはありません。そもそも私鉄は鉄道売上比率が低いことが知られており、関西空港に乗り入れている南海電鉄の場合は鉄道売上比率が30%、空港線は4.5%です。関西空港のインバウンド比率はほぼ半分ですから、売上比率は2%強しかありません。同じくJR西日本は同比率が60%と私鉄より高めですが、鉄道収入の約半分が新幹線ですし、普段の通勤客の多さを考えればインバウンド影響は小さそうです。

航空会社も関連企業かもしれませんが、インバウンド客の85%を占めるアジア発着便の売上比率はそう大きくありませんし、アジア線も国内の観光客・出張客の割合が高いと考えられます。そして、航空会社は、何と言っても原油価格と為替レートに左右される燃料費が収益を大きく左右される企業です。インバウンド客の影響は軽微でしょう。

日銀消費活動指数は好調

最後に日銀が発表している消費活動指数を紹介します。これは個人消費を旅行やゲームなどサービス消費に至るまで網羅しているほか、インバウンド消費を含む・含まないベースの両方の指数を出している点にも特徴があります。(下図)

猛暑と西日本豪雨があった7月の実績をみてみると、名目・実質ベースのどちらも、そしてインバウンド消費含みと無しベースのいずれも前月比、前年同月比で上昇しています。グラフを見ると、2014年の消費税引き上げ前の駆け込みとその反動減の後は、じわりじわりと上昇基調にあることが分かります。

ここまでの話をまとめると、ほとんどのインバウンド関連企業には、極端に大きなマイナス影響は無いように思います。会社予想を上回る勢いに多少の陰りが出る可能性はあるものの、売上高全体がマイナスになるほどにはならないのではないでしょうか。

工場などが直接影響を受けた企業はあるかもしれませんが、インバウンド関連銘柄に限れば、災害影響を気にして下がった銘柄は売られ過ぎの可能性があるかもしれません。

(文:松井証券 ストラテジスト 田村晋一)

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