はじめに

高齢化の進展により、人手不足など様々な問題がクローズアップされています。一見、マイナス面が多いように見える事象ですが、この潮流を追い風とすることができれば、中長期的に成長が見込まれる業界があります。その代表例が医療機器業界です。

今回は高齢化社会の到来で医療機器業界のニーズが高まる理由について考えてみます。


先進国の次に高齢化が進むのは「中国」

そもそも世界の人口は伸び続けており、2030年には86億人と2015年比で12億人、16%の増加が見込まれています。人口が増えるだけでなく、高齢者の増加に弾みがつくことによって、医療サービス、すなわち医療機器の活躍の場が広がっていくと考えられます。

高齢化の進展は日本をはじめとする先進国だけの問題ではありません。遠くない将来、世界各国が直面する重要な問題です。改めて、世界の高齢化率(65歳以上の人口構成比)をみると、先進国が高く、上昇率も大きいことがわかります。とくに日本では、2030年になると2015年比で4%ポイントも上昇し、30%に達すると予想されています。

これを追う形で高齢化が進んでいるのは中国です。中国では、2015年に同比率が10%になっており、すでに7%を超える高齢化社会に突入しているのです。さらに、2030年にはインド、ASEAN、中東においても高齢化社会に突入するとみられます。

現在、「人生100年時代」に備えて株式投資などの資産運用の必要性が叫ばれるようになってきました。老後に備えた資産運用を考えるとなると、投資期間は5年、10年、あるいはそれ以上の長期にわたります。したがって中長期の観点で、こうした世の中の動きや変化を見据え、投資対象を選ぶことが大切です。世界的に進展する高齢化という事象は投資を考える際の重要なヒントになるといえるでしょう。

医療費抑制ニーズも業界にとっては追い風に

具体的にみてみましょう。新興国も含めた世界的な高齢化の進展は、医療費の負担増加による財政圧迫という問題を引き起こしています。すでに日米欧においてはGDPに占める医療費の割合が10%以上に達しています。今後、新興国でも高齢化の進展に加えて、医療体制の整備が進むことにより、医療費の割合が先進国に近づいてくると考えられます。

一方、1人当たりの年間医療費でみると、米国が9,000ドルを超え(約100万円/2014年)、際立って高く、日欧がこれに続く形です。日米欧ではすでに1人当たりで多額の医療費負担となっていますが、今後、さらに上がってくる可能性は高いと考えられます。日本の1人当たり年間医療費は50歳代で20万円台ですが、65歳を境に40万円を超え、80歳代に入ると90万円を超えていることからもわかるように、高齢化の進展がさらなる医療費増加を招くためです。

国の財政負担、個人の医療費の負担を抑制するという観点からも、効率的な医療サービスを提供できる医療機器に対するニーズはますます高まっていくといえるでしょう。

医療の“あり方”の変化も市場の拡大に寄与

社会のニーズの変化によって、医療の“あり方”も変化しつつあります。高齢化の進展による医療費の増加を抑えるため、あるいはより高度な医療サービス提供の一環として、将来の病気発症リスクなどを予測する必要性が高まっています。

技術の発展により、病気と遺伝子との因果関係や相関関係の分析が進み、予測することが可能になるのも遠い将来ではないでしょう。病気発症リスクを予見し、病気の早期発見や早期治療につなげていくことが期待されます。予防の段階から医療が介入する、あるいは早期発見・早期治療を普及させるためには、従来よりも早くて、安価、しかも患者への負担の少ない検査や治療方法が必要になります。

また、医師の経験やスキルによってバラツキのあった診断や治療の標準化・高度化の観点からも、AIやロボットなどの技術進歩に支えられた医療機器のニーズは高まると考えられます。

医療機器の世界市場は約40兆円といわれ、中長期的に年率5%程度の成長が見込まれる有望市場です。今後ますます拡大が期待される市場だけに、医療機器業界の成長はこれからが本番といえるかもしれません。投資対象として注目してみてはいかがでしょうか。

(文:大和証券 投資情報部 花岡幸子)

この記事の感想を教えてください。