はじめに

10月10日の米国株下落を引き金として、世界の株式市場は不安定な状況に陥っています。
今回は、この下落局面が一過性のものであるか否かについて考えます。


株価の持続的な下落を引き起こすものは何?

皆さんも、今年の3月をボトムとした株式の下落局面を覚えていることと思います。この下落トレンドは、1月の高値から数えると約2か月間続きました。私は、長期投資家の観点から、2018年前半の株価下落局面は一過性の調整と考えています。

それでは、今回の株価下落局面も一過性のものなのでしょうか。それとも、株価は年単位で持続的に下落する局面に入ったのでしょうか。それを判断する前に、まずは株価の持続的な下落を引き起こすような悪材料は、どのようなものなのかを考えてみたいと思います。

私は、長期投資の観点で考えた場合、原則として株価は企業業績への期待によって変動すると考えています。株主は企業の保有者ですので、業績として示される保有価値が増加もしくは減少すれば、株価自体も上昇もしくは下落することが自然であると考えるからです。

そして、日経平均株価のような指数は多数の銘柄から構成されているため、日本企業全体の景気・企業業績を考える必要があります。したがって、株価の持続的な下落は、原則として、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の持続的な悪化を要因・理由とすると私は考えます。

2018年前半の世界的な景気・企業業績を考えた場合、4~6月期の米国の経済成長が4%超となったことに代表されるように、「一定の底堅さがあった」と評価できると考えます。

ファンダメンタルズを悪化させる材料はあった?

では今回の株価下落時、2018年前半に底堅かった世界的な景気・企業業績を持続的に下方屈折させるほどの大きな要因・理由となりうる材料はあったかを考えてみたいと思います。

このような記事では、ポイントを分かり易くお伝えするため、要因・理由を厳選することがセオリーであることは承知していますが、今回の株価下落をできるだけ幅広く分析するために、様々な要因・理由と考えられるものを10個、ピックアップしました(下図)。

10月10日の米国株大幅下落時には、その前週に米10年国債利回り(以下、米長期金利)が上昇していました。このことから、市場では今回の株安は「1:米長期金利上昇」がきっかけになったと考えられています。

では米長期金利上昇は、2018年前半に世界的に底堅かった景気・企業業績を、持続的に下方屈折させる要因・理由になりうるのでしょうか。それ以前に、そもそもなぜ米長期金利の上昇が株価の下落材料になるのでしょうか。

今回の米金利上昇は景気減速要因にはならない

金利上昇は、調達コストの上昇を通じて企業の活動を委縮させることで、景気鈍化を引き起こすと考えることができます。加えて、米国金利の上昇はインフレのシグナルであり、米政策金利の上昇ペースの加速が予想されるという考え方もあります。

私は、現在の米国は景気の底堅さと物価安定が両立する環境であると考えており、米長期金利は、3.5%程度までの限定的な上昇に留まることを見込んでいます(ご参考:「日本株市場への強気シナリオを維持する“3つの根拠”」)。そして、今回の長期金利の上昇は、景気が好調なことの表れであると考えており、3.5%程度までの上昇であれば、将来の景気を減速させる要因にならないと考えています。

実は、米国の長期金利を巡る議論の中では、過去2回、「長期金利―短期金利」がマイナスになった後に景気後退期に入ったという経験則があり、長期金利が上昇せずに、短期金利のみが上昇することにより、「長期金利―短期金利」がマイナスになることが懸念されていました。この意味では、今回の長期金利の上昇は、むしろプラス要因としてとらえるべきと考えています。

今後のメインシナリオは?

もう1つ市場の話題となっているのが「3:インフレ懸念(含む貿易問題)」についてです。トランプ大統領が進める関税 はモノの値段を引き上げることは確かです。しかし、物価上昇のポイントであると思われる賃金について考えると、米国9月の平均時給上昇率は、前年比2.8%の上昇に留まっています。このような状況下でインフレ加速をメインシナリオにすることに、私は違和感を感じます。

賃金の上昇ペースが限定的な中では、物価は安定推移すると考えられ、米政策金利の引き上げは、引き続き慎重なペースで実施されるでしょう。早い時期に経済を減速させるきっかけになるとは考えていません。

したがって、今回の株安を受けて、2018年前半世界的に底堅かった景気・企業業績が、持続的に下方屈折することをメインシナリオに変更する必要性を私は感じていません。このため、今回の株安は一過性のものであると考えています。

ただし、世界第2位の経済大国である中国の動き(人民元や株の動きを含む)や米中間選挙を受けた2019年の米国の政治状況については、今後とも十分に注意したいと考えます。

(文:アセットマネジメントOne チーフ・グローバル・ストラテジスト 柏原延行  写真:ロイター/アフロ)

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