はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は野瀬大樹氏がお答えします。

昨年末に2人目の子供が生まれました。養育費が不安だったので、すぐに1人目のときにかけた学資保険と同じものに入ったのですが、保険を見直していくなかで、赤ちゃんのときから加入する医療保険があることを知りました。毎月約1万円を15年間払い込むと、入院日額1万円(日帰りも含む)、入院手術給付金20万円、外来手術5万円の終身保障があり、さらに20歳から5年ごとに健康祝金10万円が出るというものです(90歳までの間、基準日時点で連続入院が10日未満であれば手術歴があってももらえる)。


終身保障の医療保険が買えるうえに、子供が平均寿命をまっとうすれば一般の保険よりもお得だという説明を受け、とても魅力的にみえました。契約をするかどうかを悩んでいます。プロの目から見て、この保険はお得と言えるのかうかがいたいです。


現在の世帯収入は手取り月25万円。生活費は23万円程度。資産としては、預金100万円、株式・国債に300万円程度。学資保険は子供2人分合わせて毎月1万6,000円を18年間払い、大学入学前に100万円、22歳のときに100万円もらえます。そのほか児童手当やお年玉はすべて、子供の口座に預金しています。
(20代後半 既婚・子供2人 女性)


野瀬: ご質問ありがとうございます。

以前からお話しているように「保険」は、パンフレットのキャッチコピーにあるような“愛”でもなんでもなく、金融商品である以上、数値をみて「得か損か」を判断するべきです。

具体的には「商品自体はお得なのか」、さらに「家計に対して妥当な支出かどうか」という議論が出てきますので、今回はその2つに切り分けてお話したいと思います。

その「保険」は本当にお得?

毎月1万円、年額12万円を15年間払うということは、支払総額は180万円になります。これがこの保険のコストです。

一方、リターンはどうなのかというと、この保険のリターンは2種類あります。ひとつが不幸にも入院したりケガをしたりしたときの給付金、そしてもうひとつが健康でいられた場合の健康祝金です。

若くして不幸になる確率については予想できませんので、とりあえずは若いうちの不幸については想定せず、この健康祝金をリターンとして考えましょう。

15年払い込めば5年ごとにもらえるとありますので、はじめてこの健康祝金を貰えるのはお子さんが20歳の時ということになります。

仮に男性の平均年齢たる約80歳まで生きるとすれば、「80歳-20歳=60年、60年÷5年+1(20歳の初年度にもらえるため)=13回」となるでしょうか。

ただ、亡くなる最後の5年間はさすがに入院も経験されるかと思いますので、1回を差し引き、計12回あたりが妥当でしょう。

「12回×10万円=120万円」と考えると、明らかにコストたる180万円には足りないため、おそらく説明ではそれ以外のリターンが含まれていたと思います。

それが満期返戻金なのか、70歳を超えた以降の平均的な入院回数による予想給付金なのか、あるいは医療保険を換算したものなのか、それらすべてなのかどうかはわかりません。

そのため、その加算額は不明ですが、いずれにせよ「平均寿命をまっとうすれば多く返ってくる」というニュアンスから察するに、「リターン-コスト」、つまりこの保険の期待収益の金額はかなり少ないと予想されます。

言い方は悪いですが、「損はしません(≒少なくともマイナスではない)」ということを強調され過ぎている、とも考えられます。

もちろん「保証が一生涯」という言葉に惹かれるのは、お子さんの将来を考える親心としてわからなくはないです。

しかし、果たしてその保険が20歳になったお子さんにマッチしているのか、そしてお子さんが80歳になる80年後にもらえる10万円の健康祝金の価値がインフレで目減りしていないかなどと考えると、どうも得にはならない可能性のほうが高いような気がします。

家計に対して「妥当」か

また、仮にどんなにすばらしい商品だとしても家計に占める支出額が多すぎるのであれば本末転倒です。家計に対する割合についても考えてみましょう。

手取り25万円に対して、学資保険1万6,000円であれば、ギリギリ負担してもよいレベルかと思います。もちろん生命保険など、ほかの保険との兼ね合いもありますが、生命保険が月5,000円以内に収まっているのであれば、家計に占める保険の割合とすればギリギリセーフでしょう。

ただ、ここに一人あたり月1万円の医療保険をかぶせるのは少し家計負担が大きいと思います。

仮に生命保険が月5,000円だとすると、1万6,000円の学資保険と5,000円の生命保険、2万円の医療保険となり合計4万1,000円、手取所得の16.4%ものお金を保険につぎ込むことになります。いくら貯蓄性が高いといっても、少しやり過ぎだと思います。

さて、ここまでのお話を最後にまとめます。

商品面:インフレ、お子さんとのマッチを考えても利幅は薄い
家計面:保険支出が多すぎる


結論:以上、2つの面より考えて、加入は見合わせてもよいかもしれません

日本には高額医療をカバーしてくれる公的保険制度もあるため、あまり過度に不安にならないほうがよいと思います。

その分、貯蓄を高め、健康に限らず将来お子さんがなにか困った時に、その預金を使ってあげることも立派な親心だと思います。預金には用途の制限がありませんからね。

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