はじめに

11月15日、東京・千代田区にあるルミネ有楽町の周辺に長蛇の列ができていました。彼らのお目当ては、あるイベントで無料配布されたアイスクリーム。この日の都内の最高気温は17度と、屋外で冷たいアイスを食べるには寒すぎるように思えます。

それでも、イベントは大盛況。会場のある1階から始まった行列はルミネの9階まで伸びていました。4時間で配布されたアイスの数は約5,800個。事前に準備した6,000個の大半がハケてしまいました。

なぜ寒い時期に、こんなイベントが開催されたのか。そして、どうしてこれほど大勢の人が熱狂したのか。謎だらけのイベントの秘密を探っていきます。


メーカー、コンビニ20社が商品提供

このイベントを開催したのは、一般社団法人・日本アイスマニア協会。2014年にアイス評論家のアイスマン福留さんが設立し、現在では約9,000人のアイス愛好家が所属する団体です。

今回のイベントの開催趣旨は、11月15日の「冬アイスの日」を多くの人に知ってもらおうというもの。この「冬アイスの日」はアイスマニア協会が昨年「勝手に制定したもの」(アイスマン福留さん)で、関連イベントを開催したのは今年が初めてになります。

イベントには、計20社のアイスメーカーとコンビニが商品を提供。無料配布されたのは、この冬の各社のイチ押しアイスです。「業界団体が開催するもの以外で、これだけの数の企業がそろって商品を無料配布するのは、おそらく初めて」(同)だといいます。

今回のイベントで無料配布されたアイス

11月15日が「冬アイスの日」の理由

それにしても、なぜ11月15日が「冬アイスの日」なのでしょうか。11月は立冬を迎える月であり、冬向けのアイスが登場し始める時期。そして、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」で定められているアイスクリームの成分規格は「乳固形分15.0%以上」となっているため、同じ数字の「15日」が選ばれたということです。

国内のアイスの歴史をひも解くと、1981年にロッテが発売した「雪見だいふく」が冬向けアイスの始まりだといわれています。その後、1984年にハーゲンダッツが日本に上陸し、冬に食べるプレミアムアイスという概念が広がっていきました。

冬向けアイスの特徴は、乳固形分と乳脂肪分が多く含まれている濃厚な商品が多い点です。「夏のアイスは水分補給や体温を下げることが目的で、さっぱりとしたシャーベット系の商品が好まれます。それに対して、冬アイスは濃厚な贅沢アイスを暖かい部屋で食べるのが主流。“自分へのご褒美”として食べる方が多いようです」(アイスマン福留さん)。

データからも需要増加が判明

この日のイベントでは5000人以上の人が熱狂した冬アイスですが、日本全体ではどれくらい盛り上がっているのでしょうか。

日本アイスクリーム協会のまとめによると、2016年度の国内のアイスクリーム類の販売金額は4,939億円。2008年度は3,845億円だったので、8年間で28%増えた格好です。販売物量は同じ期間で8%の増加なので、より高単価な商品の販売が伸びたことになります。

また、総務省の「家計調査」から1世帯当たりのアイスクリーム支出金額を調べたのが下のグラフになります。1月を例にとると、2005年には323円だったものが、2010年には362円、2015年には400円の大台を超え、昨年は464円まで上昇しています。

つまり、これらのデータからは国内のアイス需要は増加傾向にあり、その牽引役の1つが冬アイスである、ということが読み取れます。「以前は冬になると仕事がなくなっていましたが、2015年くらいからは冬にも仕事が増えてきました。冬アイスの盛り上がりを実感しています」(アイスマン福留さん)。

冬アイス人気に潜むメーカーの思惑

それでは、なぜ冬アイスの需要がここまで高まっているのでしょうか。アイスマン福留さんは、こう分析します。

「SNSやブログで個人が情報発信するのが当たり前の時代になり、冬でもアイスを食べているという共通認識ができてきました。冬のアイスは豪華なものが多く、インスタ映えするという事情もありそうです」

もう1つ、需要の盛り上がりの背景にあるのがメーカー側の思惑です。

以前であれば、メーカーの工場は繁忙期である夏場には稼働率が上がる一方、冬場は大きく落ち込んでいました。ところが冬の需要が盛り上がれば、工場の繁閑差は小さくなり、年間を通じた採算は改善します。こうした事情から近年、冬アイスに力を入れるメーカーが増えてきています。

また、冬アイスは“自分へのご褒美”として高価格帯のアイスが売れやすい傾向があります。単価が高いものが売れるとなれば、メーカー側の商品開発にも力が入ります。それが需要を喚起し、さらに消費が増えていく、という循環を生み出しているのです。

需要側と供給側の思惑がうまく一致し、拡大基調が続く冬アイス市場。「アイスといえば夏の食べ物」という感覚は、すでに過去のものとなりつつあるのかもしれません。

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