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2017.12.5

三省堂「今年の新語」に「インスタ映え」が入らなかったワケ

「忖度」は大賞に選ばれたのに…

三省堂「今年の新語」に「インスタ映え」が入らなかったワケ

今年も残り1ヵ月を切りました。毎年、この時期になると1年を振り返るイベントや発表が相次ぎますが、流行語大賞はその代表的なイベントです。

その中で最も有名なものといえば、ユーキャンの「新語・流行語大賞」でしょう。今年は「インスタ映え」と「忖度(そんたく)」が大賞に選ばれました。

一方、2015年スタートと後発ながら辞書編纂者が選ぶランキングとして最近注目されているのが、三省堂の「今年の新語」です。3年目となる2017年は、どんな言葉が選ばれたのでしょうか。


「インスタ映え」は選外にも入らず

12月3日に東京都内で開かれた、三省堂「今年の新語」の選考発表会。お笑い芸人の水道橋博士さんをゲストに迎え、トップ10と選外になった3つの新語が発表されました。

今年の一般からの応募総数は2452通、1072語。その中から選ばれた言葉とそれぞれの意味は以下の通りです。

1位 忖度
(1)[相手の気持ちを]推測すること
(2)有力者の気持ちを推測し、気に入られるようにすること

2位 インフルエンサー
経済・流行・価値観などに関して、多くのひとびとに強い影響を持つ人物。特に、インターネットなどのメディアを通して購買活動に大きな影響を与える人を言う

3位 パワーワード
(1)説得力のある ことば
(2)狂言が異様で、強烈な印象のある ことば。パワワ[俗]

4位 〇〇ロス
あるものがなくなったことで、喪失感のあまり無気力になってしまうこと

5位 フェイクニュース
何らかの意図があって、故意に流された虚偽の情報

6位 草
笑うこと。笑えること

7位 仮想通貨
インターネットなどを通して送金や決済ができ、現実の通貨とも交換のできる通貨。ネットワーク上のコンピューターが相互に取引をチェックすることで信頼性を保証する仕組みを持つ

8位 オフショル
えりぐりが広くて、肩まで出るようになっている、女性の服。オフ ショルダー

9位 イキる
調子に乗ってやたらに大きな態度を取る

10位 きゅんきゅん
接するたびに息苦しさや言い知れぬ悩ましさを感じ、異常な興奮状態に陥る様子

選外
「卍」 「プレミアムフライデー」 「熱盛」

大賞には、ユーキャンと同じく、「忖度」が選ばれました。一方で、もう1つの大賞である「インスタ映え」は選外にも残りませんでした。なぜなのでしょうか。

「インスタ蠅」なら選考対象だった

選考委員はこう説明します。

「『インスタ映え』は『インスタグラム』と『映え』の複合に過ぎません。『映え』という接尾語が付いただけなのです。『映え』の用法例として『インスタ映え』を入れることはありうるけれど、用語としては辞書に入りません」

「今年の新語」が他の流行語イベントと異なるのは、将来、辞書に収録される可能性がある新語を選ぶという点です。「インスタ映え」を辞書的に説明するには「インスタグラム」と「映え」という2つの項目があれば十分、という理由から、選考の対象とはなりませんでした。

一方、キレイな景色やおいしい食事があると、すぐに写真を撮り、インスタグラムに投稿しようとする人を揶揄した「インスタ蠅(バエ)」であれば、選考の対象になりうるといいます。「インスタ」と「蠅」に分解すると、別の意味になってしまうからです。

「空気読め」の変換ミスから生まれたネット用語である「空気嫁」も、同様の理由から辞書に載る可能性はあるそうです。何とも奥深い辞書の世界の一端が感じられます。

「忖度」に見る2つの変化

辞書に載りうるか否かが「今年の新語」の選考基準であることはわかりました。では、すでに辞書に載っている「忖度」が大賞に選ばれたのは、なぜなのでしょうか。

選考委員の説明はこうです。元々の忖度の意味は「(1)[相手の気持ちを]推測すること」でしたが、20世紀末ごろから「(2) 有力者の気持ちを推測し、気に入られるようにすること」が新たに付け加わりました。これが今年3月に国会で「森友問題」が議論されるようになると、多くのメディアにおいて(2)の意味で忖度が使われだしました。

加えて、文法的な使い方にも変化が見られました。従来であれば「〇〇を忖度する」という形で使われていましたが、今年に入って「忖度が働く」「忖度が入る」などのように、忖度を主語にしたフレーズで使われるケースが増えました。

こうした意味的、文法的な変化をとらえて、また、「インスタ映えは一部の若者だけが使っていたのに対し、忖度は老若男女が使っていた」(飯間浩明選考委員)ことから、忖度が大賞に選ばれたというわけです。

「卍」が選外になった辞書的理由

選外で興味深かったのは「卍」。11月30日に発表された「JC・JK流行語大賞2017」でも、「まじ卍」がコトバ部門の4位にランクインしています。ところが、三省堂「今年の新語」では選外にとどまりました。

一部の若者のTwitterには「これからバイトとかマジ卍」「行きたすぎる卍」という表現が出てきます。この場合、「これからバイトに行くのは本当に嫌だ」「マジで行きたい」という意味になります。ただ、「卍な彼氏」という使われ方だと、「ヤンキーな彼氏」という意味になるそうです。

「選考委員の間でも議論になり、資料を集めて調べてみましたが、使われ方がよくわかりませんでした」(飯間委員)。意味や用法が固まっていない段階では辞書に載せられない、との理由から、卍は選外になったそうです。

「単なる流行語では、後々に残る言葉になりません。辞書を作っている立場からすると、後々に残る言葉の普及し始めた時期を見極めたい。目撃する機会を毎年作りたい。それを蓄積すると、言葉の生い立ちが見えてくる。そんなイベントでありたい」(飯間委員)

最近耳にした言葉が、しだいに普段使う言葉になり、社会に定着していく。その過程を自覚的にとらえる辞書編纂者の視点に立つと、世の中の流行り・廃(すた)りの本質的な部分を見定められるようになるかもしれません。

(文:編集部 猪澤顕明)

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