はじめに

プロ野球のオープン戦シーズン真っ只中です。オープン戦は、3月30日から始まる公式戦の前に約1ヵ月間にわたって開催される、選手が試運転をするための練習試合的な位置づけです。

対戦カードは同じリーグ同士もあれば、セ・リーグ球団とパ・リーグ球団という組み合わせもあります。多くのチームが2月に1ヵ月間の春季キャンプを九州や沖縄で行いますので、キャンプ地からスタートし、徐々に北上しながらオープン戦を戦い、最終的にホーム球場に戻ってくるというチームもあります。

あくまで調整が目的ですから、のんびりやっているように見えなくもありません。1軍に上がれるかどうかの瀬戸際にいる選手は必死なので一生懸命ですが、レギュラークラスの選手はここで無理をしてケガでもしたら開幕に間に合いません。

「調整」的なのは選手だけではありません。この時期は球団側も今シーズン考えている顧客サービスのテスト期間として、さまざまなことにチャレンジします。各球団の取り組みにはどんなものがあり、どのような事情が秘められているのでしょうか。


顧客サービスでもトライアル

さまざまなチャレンジが取り入れられている、オープン戦の企画。いつもは値段が高いハイグレードな指定席でも、この期間だけ自由席にして体験してもらい、次回来るときはここを買おうと思わせる、というのはその代表的な事例です。

たとえば、福岡ソフトバンクホークスは、本拠地であるヤフオク!ドームの開催初日の3月3日、「スタジアムグルメ食べ放題」と銘打って、球場内のフード類を無料にしました。これは球界として初めての試みとのこと。ドリンク類は有料でしたが、今シーズンの新メニューをお披露目する意味も込めていたようです。

球場の飲食収入は球団のものではなく、球場のものです。プロ野球12球団のうち、球団自身や、球団の親会社やグループ会社が球場を所有している球団は9つあります。ソフトバンクの場合、球団自身が球場を所有しているからこそ実現できた企画といっていいでしょう。

この日は2,500円で全席自由。普段なら1万円以上するハイグレードの席も、自由に座ることができました。その代わり、チケットは2万5,000席分しか販売しませんでした。この球場の収容可能人数は3万8,530人ですので、65%程度に抑制し、混乱を回避しようとしたのでしょう。

ところが、何しろ球団としてだけでなく、球界としても初の試みだったからか、大混乱となりました。フード類を求める人でコンコースがごった返し、目的の食べ物にありつけるまでに1時間かかる、といったこともあったようです。

ノウハウはトライ&エラーを繰り返すことで積み上がります。球団は翌日、謝罪文を自らのホームページに掲載しましたが、この経験は今後の運営に生かされるはずです。

プロ野球が顧客満足に目覚めた理由

かつてのプロ野球は「顧客サービス」という概念から、およそかけ離れたものでした。興業でお客さんを呼んでいるのだという意識すら、希薄だったのではないでしょうか。

どうしたら顧客満足度を最大化し、繰り返し何度も球場に足を運んでもらい、そこでお金を使ってもらえるか。そんな当たり前のことを球界が一生懸命やり始めたのは、実は2004年以降なのです。

この年は、近鉄球団が消滅の危機を迎えた年です。シーズン途中で唐突にオリックスとの合併が発表され、球団数が減る、つまり1チーム分の選手が失業を余儀なくされるような一大事だっただけに、大混乱に陥りました。

最終的には、楽天が新規に参入。同じタイミングで福岡ダイエーホークスの親会社がソフトバンクに交代したりと、球団の親会社の顔ぶれに「新しい血」が入りました。

日本ハムも東京から北海道に移転して、新たなファン開拓に乗り出していたので、プロ野球を興業ビジネスという視点で捉え、顧客満足度を最大化しようという流れになったわけです。

日本最大級の意識調査の対象に

この時点ではパ・リーグ6球団だけの動きでしたが、その成功を目の当たりしたセ・リーグ球団にも徐々に広がっていきました。結果、2005年から2017年までの12年間で、主催ゲームの観客動員数はパ・リーグ全体で34%、セ・リーグ全体でも20%、両リーグ合計で26%も伸びました。

そのため、マーケティングの専門家の間でもプロ野球は高い関心を集めるようになりました。ついには、日本生産性本部のサービス産業生産性協議会が2017年にパ・リーグ6球団を顧客満足度調査の対象にしました。

この調査は、総計12万人以上の利用者からの回答を基に実施している、日本最大級の顧客満足度調査です。業種ごとに年数回に分けて公表していて、パ・リーグ6球団の分は今年2月に公表されました。1位はソフトバンクが獲得しています。

ちなみに2位は西武、3位は楽天と日本ハムでした。上位に学んでもらおうというのが調査の主旨なので、5位以下は公表されていません。2018年度以降も引き続き実施するのか、そしてセ・リーグ球団も含めるのかは、現時点では検討中だそうです。

これまでは各球団が独自の判断で進めてきた顧客サービスですが、第三者機関が横断的に定量評価することで、品質向上のピッチは上がっていくものと期待されます。観戦する側にしてみれば、こうした動きが広がり、各球団が切磋琢磨することで、中長期的にはプラスに働きそうです。

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