はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は野瀬大樹氏がお答えします。

父が30年近く前に中古アパートを取得。その後、大手デベロッパーがアパート一帯を等価交換し、マンションを建築しました。等価交換したマンションの一室を数年前に父から相続し、今年、売却したのですが、アパートを取得した際の売買契約書と、等価交換を行った時の売買契約書が見つからない状況です。


このような状況において、譲渡所得計算で必要となる購入額に確定申告で記載している未償却残高を用いても問題ないでしょうか。なお確定申告の取得価格がどのように決まったのかもわかりません。調べる方法があるようでしたら、あわせてご教示いただけると幸いです。
(40代後半 既婚・子供なし 男性)


野瀬 :不動産売却で「利益」が出た場合は、その利益に税金がかかります。税率は5年以内の短期保有で39%、5年超の長期保有で20%です。

そして「利益」の計算は以下になります。

【利益 = 売却額 - 取得価額 - 売却の諸経費】

さて、売却額と諸経費はすぐにわかると思うのですが、問題は取得価額です。

売買契約書を紛失してしまったら?

不動産の売却は株と違い、そう頻繁にするものではないので「いくらで買ったかわからない」というケースがほとんどではないでしょうか?

買った時の売買契約書などが残っていればよいですが、おそらく紛失しているケースがほとんどだと思います。

この「わからない」ケースにおいて認められている、とりあえずの取得価額は売却額の5%です。

「たった5%!!! 売却額のほとんどに税金かかる!」と思うかもしれませんが、日本の不動産がどんどん値上がりしている時代に定められた法律だからでしょうか? 100年前と今では貨幣価値が全然違うからでしょうか? とにかくこのような決まりになっています。

不動産を買ったら、売買の記録はしっかり保管しておきましょう。

相続で得た不動産はどすればよいか?

さて、今回はこの不動産が「相続によって」得たものだった場合です。

自分が買ったものではないので「相続時の相続税評価額」が妥当のような気もしますが、税法では「もとの所有者が買った時の取得価額」と定められています。

つまり、お父様が購入した時の取得価額ということになります。なかなか厳しいですね。

そして今回のように「売買契約書をなくしたケース」ですが、この場合は残念ですが、先ほどの「5%ルール」が適用されます。

確かに過去の確定申告の書類は、当時の売買契約書から作成したかもしれませんが、売買契約書は税務署に提出したものではありません。あくまで売買契約書をもとに作成した確定申告書による「自己申告」なのです。

ですから確定申告の書類が、過去の不動産の取得価額の証拠として使えることはないのです。

土地ではなく建物の場合、取得価額から減価償却費相当額を差し引くので、確定申告書類のみでOKと考える人もいますが、そもそもの取得価額の根拠となる資料はおおもとの売買契約書になります。

相続後3年以内であれば相続税を取り込める

ただし今回は「数年前に相続」とありますので、1点、特例が使える可能性があります。

相続後3年以内の不動産の譲渡であれば、相続時に支払った相続税の一部を取得価額に取り込むことができます。

確かに相続税をとられたうえに、売却益の計算はもとの持ち主の取得価額を用いるため「税の二重取り」のような気もしますよね。ですから、このような制度が設けられていることになります。

条件としては、「相続税を納めていること」「相続より3年以内の売却であること」とありますので、該当しそうなのであれば一度確認してみるとよいでしょう。

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