はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は横山光昭氏がお答えします。

住宅購入を考えています。頭金として約1,000万円を準備することができました。ローンを検討していたところ、変動金利で金利の安い(0.7%)住宅ローンを借りられることになりました。本当なら、きちんと頭金を入れて、住宅ローンの返済が大きな負担にならないようにしていきたいと考えていたのですが、お金に詳しい友人が「住宅ローン控除で得できるから、頭金は入れずに全額住宅ローンで借りて、住宅ローン控除が終わる10年後に頭金分を繰り上げ返済するとよい」とアドバイスしてくれました。

友人の言うようにすると得をするということはなんとなくわかるのですが、そのような購入方法を取っても大丈夫でしょうか。妻が「後々ローンで苦しむことにならないか」「本当にお得なのか」と不安がっているので、どのようにお得になるのかを教えてください。

〈相談者プロフィール〉
・男性、38歳、既婚(妻:パート)、子供2人(小6・小4)
・職業:会社員
・手取りの世帯月収:41.4万円
・年間賞与:80万円
・貯蓄:頭金用1,000万円、その他資産380万円(預貯金150万円、投資信託230万円)


横山: 住宅ローン控除は、年末の住宅ローン残高の1%の金額を所得税から10年間、税額控除してくれる制度のことです。

住宅ローン金利と住宅ローン控除の差額で得ができる?

所得税の全額から引いても引ききれず、控除可能額が残ってしまう場合は、住民税からも引いてくれます。つまり、住宅を買うことで、ローンを組み始めてからの10年間、税金を安くしてくれる制度のことなのです。

この戻ってくる1%よりも住宅ローンの金利が低いと、戻る控除額より支払う金利額のほうが少ない計算となるため、お得だという話になります。

極端な話、差額分の金額は“儲け”と捉えることもできます。ですから住宅ローン控除期間中は、繰り上げ返済などをせず、住宅ローン控除の対象となる金額が多いままにしておいた方がよいということになります。ご友人はこのあたりのことがよくわかっていて、アドバイスをしてくれたのでしょう。

こうした状況が、ここ数年繰り上げ返済すべきかどうかという視点から注目され、「とりあえず10年は我慢して、10年後に繰り上げ返済ができるようにお金を貯めておこう」という動きになっていきました。

ただ、これを誰にでも当てはめて言うのは危険なことでもあるのです。

10年後「取っておいたはずのお金がない!」

10年間は住宅ローン控除の恩恵を受け、終了後に頭金分のローンを軽減するために繰り上げ返済をするつもりだったご家庭からの家計相談で、次のような話を比較的多く聞くようになりました。

それは「繰り上げ返済するためのお金がなくなってしまった!!」という話です。住宅ローン控除の恩恵をできるだけ多くしたいと、頭金を繰り上げ返済用にしっかり取っておいたはずなのに、いつの間にかなくなっていた……。

10年という年月には、さまざまなことが起こり、家庭環境も変化します。たとえば、相談者さんのようにこれから教育費がかかってくるご家庭では、大学進学の資金などが必要になり、やむなくマイホーム資金を取り崩して支払うというようなことも起こりえるでしょう。

「後から払えばいい」と考えている時期には、そんなことが起こるとはつゆも考えられなかったことです。こういうことが、教育だけではなく、介護や病気などでも起こり得ます。ですから「10年後」にお金が残っているかどうかは、まったく保証されていないのです。ここを当てにしてしまうのは危険です。

老後資金も教育資金も大変に

10年後にお金がなく繰り上げ返済ができないとなると、住宅ローンの返済期間が当初予定していた期間よりも長くなります。ローン負担が長くなると、老後資金など、将来の資金繰りにも影響がでます。

先日家計相談に来たHさん(58歳)は、数年前に「頭金は取っておいて、住宅ローン控除を受けたほうがお得だ」と言われ、フルローンで住宅を購入しました。

この控除期間が終われば、頭金分の金額を繰り上げ返済しようと考えていましたが、途中、教育資金の不足から、マイホーム資金から大学の入学金などを支払ってしまいました。そのあとも、少しお金が足りなくなるとそこから引き出すということを繰り返し、気がつけばお金があまり残っていない状況になりました。

定年まであと2年。退職金は老後資金用ですから住宅ローンの返済には充てたくないですし、再雇用制度を利用したとしても給料は半減するに等しいため、貯めて頭金分の金額に戻すことは困難です。

老後も多額の住宅ローンを支払わなければならない状況になってしまいました。年金額が少なく、貯蓄で補填していかないと毎月の生活が厳しい見込みだったのに、住宅ローンの支払い負担が増えてしまうため、生活が成り立たないのではないかと不安になり、困っています。

こういうことも起こるのです。今回の相談者さんにも起こりえることです。

住宅ローン控除は確かにお得でありがたい制度です。ですが、お得ばかりを求め、自分でしっかりとした管理ができないままに、大きな支払いを先送りにしてしまうことにはリスクが伴います。少しでも貯蓄が減ってしまう可能性があると思う人は、はじめからきちんと頭金を入れておいた方が得策だと思います。

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