はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は野瀬大樹氏がお答えします。

投資用マンションを私(夫)名義で、単独でローンを使用して保有しています。妻にもローン返済を手伝ってもらい、本物件で得た収益を折半しようと話しているのですが、のちのちトラブルにならないようにするためには、どのような取り決めをすべきでしょうか。

妻の負担はローン総額の2分の1を想定していますが、資金に余裕ができた段階で何度かに分けて協力してもらおうと考えているため、厳密にいくら協力してもらうかについてはまだ決めていません。また、贈与税などの税制面で、留意事項があれば教えていただけないでしょうか。贈与税がかからないようにするには、妻の出資分に対して賃貸借契約を書面で残しておいた方がいいのだろうかと考えています。
(20代後半 既婚・子供なし 男性)


野瀬: 結論からいいますと、夫名義の不動産を二人で共同して返済する、という質問者の案はあまりおすすめしません。ご懸念の通り、贈与税の問題があるからです。

「生活費」として毎月拠出すれば贈与税はかからない

どうしてもなにかしらの事情で、夫婦共同名義に切り替えたいのであれば話は別ですが、ただ単に「返済の手助けがしたい」というのであれば、奥様の口座から生活費を毎月拠出すればよいと思います。

なぜなら、毎月かかる家族の生活費のための出金であれば、基本的には贈与税はかからないからです。厳密にどれくらい援助してほしいのか決まっていないのならなおさらです。

ただひとつだけ注意する点があり、「生活費」といっても、贈与税がかからないのはあくまで「常識の範囲内」になるということです。

ですから、生活費への拠出は多くても毎月20万円~30万円ぐらいにしておくとよいでしょう。たとえば、まとまって数年に一回数百万などを拠出すると、あとで税務署から贈与とみなされる可能性も否定できません。

シンプルに単独返済にするのがお得

質問者の案では、「夫名義の不動産ローン返済のためにいったん妻が夫にお金を払い、その物件から得られる収益を今度は妻が夫からもらう」という流れになっています。

これは、お金が出ていってまた戻ってくるというムダな動きが生じているといえるわけです。

そうなると、当然契約の問題が生じますし、金額によりますが、下手をすれば奥様にも不動産所得があると判断される可能性もあります。

そのような懸念が発生するのであれば、先ほどお話したように、シンプルに夫単独で返済を行い、奥様は生活費にその分のお金を拠出したほうがお得だと思われます。

共同名義にすると売却のタイミングを逃す可能性も

そして、共同名義にする場合はどうかという点なのですが、こちらもおすすめはできません。それは、共同名義にすると処分が面倒になる、という理由からです。

現在お持ちの物件は、投資用のマンションであるとおうかがいしています。となると「これっ!」というタイミングで売却することについても視野に入れているはずです。

不動産投資をされている方なら分かると思いますが、投資にはスピードが大切です。

いざ売却手続きを取りたいと思ったときに、その手続きにかかる時間は少ない方がいいに決まっています。また買主の側からみても物件を探す際、「共同名義」と案内に書いてあると「なにやら、ややこしいかも」と思ってしまう人がいるのも事実です。

そうなると、みすみす、いい取引を逃してしまう可能性も高くなるでしょう。

最後にまとめますと、下記のようになります。

(1)返済は基本夫単独で、返済を手伝ってほしいのであれば、夫に代わり妻の生活費負担額を引き上げることで調整する

(2)夫婦の預金を増やしたいのであれば、上記方法に加え毎月定期積立をする

(3)共同名義についても、投資物件としての機動力が落ちてしまうためおすすめしない

夫婦の財産はまず「トータル」で、いったん財布はひとつで考えて、その後、夫婦名義でいくらずつ預金や投資を増やしていくかを考えるのがよいですね。

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