はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は野瀬大樹氏がお答えします。

投資と貯蓄の方針についてアドバイスがほしいです。


【現在の状況】
世帯年収:850万円(夫500万円・妻350万円)
月間支出:40万円弱(住居は賃貸、都内在住)※住居購入は考えていません
貯蓄:800万円
投資:0円
家族構成:夫32歳、妻32歳、子供2人(2歳と0歳)※子供はあと2人ほしいです
親族(夫):両親、兄(既婚子有り、親別居)、妹(シングル子有り、親同居)
親族(妻):両親、姉(既婚子有り、婿養子、親同居)
※両親はともに関東の田舎に在住です


【現状認識と将来のリスク】
現在の年収を維持できれば、将来的にもそれほど金銭的な苦労はなく過ごせるという認識です。現金貯蓄は十分にあるので、今後は投資に回していくのがよいかと思っています。ただし、ある程度の知識が必要な不動産投資や為替取引、特定銘柄の株式購入はハードルが高いと思っています。また、将来的なリスクとして以下を想定しています。
・会社の業績不振による、妻の失業の可能性
・子供が増え、私学へ進学すると、子供の教育費が増加
・夫の両親の介護が必要となると、田舎移住や介護費用がかさむ可能性


【考えている今後の方針】
上記のことから、とりあえずは低リスクな国債やインデックスファンド購入がベターかと考えています。以上をふまえ、考えておいた方がよいことや、よりよい方針案などがあれば聞かせていただけるとうれしいです。
(30代前半 既婚・子供2人 男性)


野瀬: 詳細な情報ありがとうございます。こうして事細かに前提条件をいただけると助かります。

いただいた情報をもとに、昇給がほとんどなかった場合を仮定し、少し保守的に生涯のキャッシュ・フローを作成してみました。

大学卒業までの養育費は1人3000万円

収入は額面だと考えて手取り額に訂正し、子供の増加とともに養育費も増えるという計算です。

すると、今のままでお子さんが4人に増えると、実は家計としてはかなり苦しくなります。昔は公立・私立によって子供1人あたりの養育費がかなり違ったのですが、今は国立大学の学費もどんどん上がり、それほど違いがなくなっています。

具体的にいうと、大学を卒業するまでに平均して3,000万円前後がかかります。つまり、単純計算でお子さんが4人だと、1億2,000万円のお金がかかることになります。

私の試算では、質問者の方が50歳前後で、お子さん4人が就学している「最もお金がかかる時期」に赤字転落、つまり貯金を取り崩して生活する期間に入ることになります。ただ、すべて公立に進学する子もいるでしょうから、なんとか資金ショートはすることなく4人のお子さんは全員社会人になることができるでしょう。

ただ、そうなったとしても「退職金ゼロ」という悲観的な情報で試算しているので、老後資金はほぼゼロになると想定されます。

ご夫婦2人とも厚生年金がもらえたとしても、老後生活は相当苦しいでしょう。持家ではないので、なおさらです。

また今回の試算は奥様が産休育休を貰えることを前提としていますが、そううまくいかない場合も多いと思います。会社が業績不振であるなら、妊娠出産を機に退職を迫られることも少なくはありません。世知辛い世の中ですが、これが現実です。

「投資」の前に手を付けるべきことがある

さて、そうなると3人目、4人目の子供を諦めるべきなのかと思いますが、それではますます日本の少子化に拍車がかかってしまいます。現状なにができるのかを考えてみましょう。

私は投資関連のセミナーも行っているので、「お金を増やしたい!」という方がいたら、いの一番に「投資」を勧めるというイメージを抱かれることがありますが、それは違います。

いつもアドバイスする順番は以下になります。

「お金を増やしたい」人に贈る3ステップ
1:使えるものを使い倒す
2:生活費を下げる
3:投資を行う

とくに質問者の場合、資金の目的が「老後資金」であるため、増やす必要があるのにリスクを取れないというジレンマに直面していることからも上記の順番で考えるとよいと思います。

1:使えるものを使い倒す

使えるものの代表格は「親」です。質問者の場合、すでに同居されている別のご兄弟がいますので、ドカンと大きな援助を得ることは難しいかもしれません。

しかし、もし兄弟が優遇税制がある1,500万円までの教育費贈与や、家を購入するときの資金援助を受けている場合は、思い切ってお願いしてもバチはあたらないと思います。これができれば財政状況は一気に好転します。

使えるものその2は「国や自治体」です。お子さんが大学進学をされる際に資金繰りが苦しい場合には、無理せず奨学金などを利用しましょう。

日本のほとんどの奨学金の場合、返済義務があるので、たしかに、お子さんには負担になります。しかし、お子さんの立場で考えるなら、それでも大学に行けるほうがよいと思うでしょう。

そして、「進学にお金がかかったから」と、将来お子さんがご両親の老後の生活まで面倒みる必要に迫られてしまっては本末転倒です。

2:生活費を下げる

最初は少し苦しいかもしれませんが、生活費、とくに「固定費」を下げることは地味ですが、効果が高いです。

まだお子さんも就学していないのに、現在の生活費40万円というのは、総務省の家計調査から考えても少し多いように思います。保育園の状況にもよりますが、今の段階なら目標を32~36万円あたりに設定したいところです。

それぐらいの心構えでいないと、今後さらに2人お子さんが増えると、家計はどんどん苦しくなります。

節約の具体的手法として考えられるのは、「家賃」「保険」「通信費」「会費」の削減です。

【家賃を下げる】

今後の家族数が不確定、かつ変動が激しくなるのが予想されることと、6人家族用の物件は少なく、よい住宅を探すのが難しい点から、住居は賃貸のままで問題ないと思います。

家族の人数変動に合わせて柔軟に家の広さを変えるべきでしょう。中古物件でもリフォームすれば十分に綺麗ですので、築年数にはこだわらず、コスパのよい物件を探してください。

【保険を下げる】

お子さんが多いので保険を削りにくいという事情はわかりますが、とにかく貯蓄ではなく「保証」に重点を置いて、掛け捨てで掛け金が安いものに切り替えるとよいと思います。

【通信費を下げる】

金額は低いですが、これはプロバイダーを乗り換える、ネット電話に切り替える、格安スマホに切り替えるなどの方法です。

【会費を下げる】

これも金額は小さいですが、改めて預金通帳やカード明細を精査して、もう使っていないクレジットカードやサービスの会費を払っている場合、すべて解約して整理しましょう。

金額は小さいものの、通信費、会費は今日から手をつけられるので、すぐに始めてください。

3:投資を行う

1、2を実行してタネ銭ができたら、そこではじめて投資を意識されるとよいでしょう。

たしかに今の預金800万円は、一見少なくはないですが、現在お子さんが2人、さらに今後2人を希望となると、決して安心できる額ではありません。

今は相場も高いので、コツコツタネ銭を貯めて、貯金額が合計1,100~1,200万円を超えたら、800万を残した額を使って投資を始めるぐらいの心構えでよいと思います。

また、質問者の方は「あまり投資知識がない」ことをご自身で理解しておられるので、インデックスファンドでの投資一本でよいと思います。

これは投資するうえで本当に大事なことですが、スキルがないと自覚している以上、さまざまなタイミングで大きな手数料が取られる投資商品よりも、手数料が低く抑えられているインデックス投資のほうがよいからです。

バランス型、総資産額が大きく、信託報酬が少ない、などの条件で探し、長い目で投資するのがよいと思います。

加えて、これは私見ですが、これだけ国の借金が多い状態のなか、長期的にみて国債で儲かるかどうかというと、少し難しいかと思います。国債は、ギャンブルの胴元相手にギャンブルするような性質のものと私は考えているので、あまりおすすめできません。

とにかく、今すぐに手をつけられることから進め、2~3年後に投資をはじめられるように準備する、そんな心構えでよいと思います。

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