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知名度抜群の「完全養殖マグロ」を店頭で見かけない事情

水産大手が相次ぎ参入のはずが…

知名度抜群の「完全養殖マグロ」を店頭で見かけない事情

日本人がこよなく愛するクロマグロですが、乱獲が続いた影響から、太平洋に生息するクロマグロは絶滅危惧種に指定されています。そこで昨今、漁業関係者からの期待が集まっているのが完全養殖マグロです。

実際、総合商社や水産大手が相次いで完全養殖事業への参入を表明しています。こうした企業の養殖したマグロが市場に出回ってくれれば、私たちも気がねなくクロマグロを食べられるようになるはず。

ところが、事態はそう簡単ではありません。大手企業が相次いで出荷を開始しているものの、その流通量が増えてくるにはまだまだ時間がかかりそうなのです。何がネックになっているのでしょうか。


水産大手2社が新規参入

11月22日、水産大手4社の一角である極洋が、完全養殖のクロマグロの出荷を開始しました。ブランド名は「本鮪の極(きわみ) つなぐ」です。

実際に生産を手掛けているのは、飼料大手のフィード・ワンとの合弁会社である極洋フィードワンマリン。養殖のプロである極洋と、配合飼料のプロの組み合わせです。

水産大手4社(マルハニチロ、日本水産、極洋、ニチレイ)の中では、マルハニチロがいち早く2015年から完全養殖マグロの出荷を開始しています。極洋は2番手になります。

今のところ具体的な出荷予定スケジュールは発表されていませんが、日本水産も今冬の出荷を目指しているというリリースを昨年8月に公表しています。

このように大手の参入が相次いでいる、完全養殖クロマグロの分野。それでもなお、流通量が思うように増えていないのが現状なのです。

30年かけて誕生した近大マグロ

本題に入る前に、まず養殖マグロと完全養殖マグロの違いを押さえておきたいと思います。

養殖マグロは天然の若魚を捕獲し、生け簀で生魚になるまで育てたものです。その養殖マグロが生んだ卵を、人工授精で孵化させた稚魚が成長して親魚になっても、まだ完全養殖マグロとは言いません。人工授精させた卵由来の親同士から生まれた卵が、人工授精で孵化し、稚魚となり、成魚になって、ようやく完全養殖マグロと呼べるのです。

マグロの完全養殖に世界で初めて成功したのは近畿大学水産研究所です。1970年から研究を開始し、30年以上をかけて2002年6月に成功しました。これが有名な「近大マグロ」です。

それでも大量生産が始まったのは2014年。わずか3年前です。2010年に総合商社の豊田通商と業務提携し、合弁会社・ツナドーム五島を設立。ここで稚魚から幼魚に育てる中間育成技術が磨かれ、2~3%だった稚魚の生存率が35%に上がったことで量産化のメドが立ったそうです。

しかしその近大マグロ、テレビで取り上げられているのを見ることはあっても、普段買い物をしているスーパーで見かけることはまずありません。なぜでしょうか。量産化に成功したとはいっても、流通している絶対量がものすごく少なく、しかも育成に大変な手間ひまがかかっているだけに、価格がものすごく高いからです。

出荷量は国内需要の0.15%

日本人が年間に消費するマグロの量は約35万3,000トン(2015年実績)。これに対して、
近大マグロの2016年度の出荷数は1,234匹、重量にして60トンです。極洋の今年度の出荷目標も、同じく60トン。マルハニチロは重量目標を発表していませんが、400トンという報道がありました。

その通りだとすると、3社合計で520トンとなります。3社合わせても、日本全体の消費量のわずか0.15%でしかありません。

売っている場所も限られています。近大マグロの場合、販売を手掛けるアーマリン近大のホームページに卸している小売店が載っていますが、基本的に大手百貨店です。デパ地下の高級鮮魚売り場で売られているのです。

リストに載っている日本橋三越本店をのぞいてみると、普段の販売価格はおおむね200グラム前後の1柵が2,500円です。主に週末に入荷しているようで、入荷すれば解体ショーもやっているとのこと。残念ながら今年は生育が悪く、今後の入荷のメドは立っていないそうで、解体ショーは近大マグロではなく九州産のマグロで実施するそうです。

大阪・梅田と東京・銀座に近大マグロが食べられるお店があり、ランチは最低でも1,850円(税込み)。一番人気の近大マグロづくし定食は2,500円(同)ですから、決して安くはありません。


近大マグロが食べられる東京・銀座の「近畿大学水産研究所」 

水産大手のマグロも捜索は難航

それでは他社のブランドはというと、どこに行けば買えるという状況にすらないようです。

マルハニチロはブランド名が「BLUE CREST」ですが、店頭でもこのブランド名で売られているわけではないそうです。大手スーパー・イオンのプライベートブランド(PB)に採用されており、イオンの店頭ではPBのブランド名で売られているそうですが、常にあるわけではありません。

極洋に関しては、初の出荷が終わったばかり。卸売業者を通じて販売しており、1回の出荷量もまだ少なく、こちらも近大マグロのようにどこへ行けば買える、という状況にはないようです。

生き物が相手だけに、今後、破竹の勢いで出荷量が伸びるというわけでもなさそうです。とはいえ、天然ものが絶滅の危機に瀕する中で、完全養殖クロマグロの流通が少しでも早く拡大することを望まずにはいられません。

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