はじめに

百貨店での販売が好調です。外国人観光客の買い物増加が貢献しています。ただし、理由はそれだけではありません。株高の恩恵で、宝飾品など高額品の売れ行きが好調といいます。日本の消費がひさびさに元気を取り戻していると考えたいところです。

ただ、冷静に考えて、株高の恩恵を受けられるのは、一握りの富裕層だけです。国民全体に恩恵が広がっている感覚はありません。日本の消費が本当に元気を取り戻すには、もっと賃上げが広がる必要がありますが、今のところ、好景気でも賃上げは広がりません。

一方、家計にとって、気になる兆候も出ています。ガソリンや食品、宅配便など、国民生活に直結する分野で、値上がりが目立つようになってきたことです。その中身をくわしく見てみると、景気変調の先行指標に“黄信号”が灯るかもしれない状況が浮かび上がりました。


商品ごとに値上げの形はさまざま

食品の値上げはいろいろな形をとります。ハム・ソーセージなどでは、価格を据え置いて内容量を減らす「実質値上げ」が行われることがあります。高齢化で食事量が減り、小さいパッケージでの買い物を好む消費者が増える中、内容量を減らす値上げは、意外とすんなり受け入れられることもあります。

ただ、今年になって、全国で実施している「明治おいしい牛乳」の容量削減には、落胆の声も多数出ています。価格は据え置きで、1リットルの紙パックを900ミリリットルのボトルキャップ式容器に変更しています。注ぎ口を改善したといいますが、消費者から見ると、露骨な「実質値上げ」にしか見えませんでした。

最も多いパターンは、品質を高めて、販売価格も上げる方法です。チョコレートやヨーグルトなどで、高級品を出して価格を引き上げる動きがあります。ただ、消費者の嗜好をとらえて単価引き上げに成功している場合は、消費者に喜ばれているといえます。

リッター160円超なら消費を抑制

生活必需品で、品質は変わらないのに価格だけ上がっていく場合は、家計を直撃します。喫煙者にとっては、タバコの値上げは財布を直撃します。もっと国民生活に直結するのは、ガソリン値上げです。自動車が生活の足になっている地方では、深刻な問題となります。

それでは、ガソリン価格の動きを見てみましょう。

2016年3月にリッター当たり112円まで下がったレギュラーガソリン(全国平均)ですが、足元では141円まで上昇しています。ガソリン高によって車の利用を控えるといった動きはまだ出ていませんが、このまま上がり続けると、目に見える悪影響が消費に広がります。

過去の経験則では、リッター当たり160円を超えると、消費を抑制する力が強まります。2000年以降の動きを見ていると、それは2回ありました。2008年8月4日には、リッター185円に達しています。この直後に、リーマンショックと呼ばれる世界不況が起こっています。

インフレが消費を押しつぶす懸念

リーマンショックはアメリカ発の金融危機が世界に広がったことで起こったといわれますが、それだけが原因ではありません。エネルギー価格が高騰したため、世界的にインフレが進んで消費を押しつぶしたことも影響しています。

日本では、ガソリン価格がリッター当たり160円を超えた同年5月以降、道路を走る自動車が目に見えて減りました。万年渋滞路線でも、すいすい走れるという事態が起こっていました。インフレによって消費が萎縮し、世界的な不況が起こる前兆がはっきり現れていたわけです。

同様に、レギュラーガソリンがリッター当たり160円を超えた2014年も、消費が落ち込みました。同年4月に消費税率を5%から8%へ引き上げた影響が大きかったといえますが、円安によってガソリン価格の上昇が続いたことも少なからぬ影響を及ぼしました。

今はまだ、ガソリン価格は141円までしか上がっていません。車での外出を控える動きが広がるほど、上がったとはいえません。ただし、ここから一段の値上がりとなると、無視できない影響が出てくる可能性もあります。今後の動きを注意して見ておいたほうが良さそうです。

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