はじめに

この勢いは本物なのでしょうか。流通大手のイオンが1月10日、2017年度第3四半期(3~11月期)の決算を発表しました。本業の儲けを示す営業利益は、6年ぶりの高水準を記録。前年の同じ時期と比べて2割の増益となりました。

いったい何がイオンの業績回復を牽引しているのでしょうか。そして、足元の状況は、同社の事業が“完全復活”を果たしたといえるものなのでしょうか。


“屋台骨”GMSが急改善

この日、イオンが発表した第3四半期の営業利益は1,027億円と、前年の同じ時期に比べて174億円の増加となりました。第3四半期までの9カ月間で1,000億円を突破したのは、過去最高益をたたき出した2011年度以来、6年ぶりのことです。

マックスバリュをはじめとしたSM(スーパーマーケット)事業は、農産物の相場安や魚介類の不漁、10月後半に2週にわたって週末に襲来した台風などの影響に加えて、人件費や電気料金の上昇が足を引っ張りました。前年の同じ時期と比べると、営業利益は62億円のマイナスとなりました。

こうした中でイオンの業績を牽引したのが、SM事業と並ぶもう1つの屋台骨であるGMS(総合スーパー)事業でした。前年同期比174億円の増益分のうち、実に163億円がGMS事業の損益改善によるものとなりました。

同社では、今年度を初年度とする中期経営計画において、GMSをはじめとする「既存事業の構造改革」を主要な取り組みに掲げています。その一環として進めているのが、新機軸の新規出店です。

体験型店舗を相次ぎ出店

たとえば、昨年6月に出店した「イオンスタイル神戸南」(兵庫県)。神戸市中央卸売市場に隣接している立地を生かし、朝獲れ鮮魚の販売や海鮮丼コーナーなどを導入し、鮮度感を意識した店舗づくりを進めています。

また、7月に同じ兵庫県に出店した「イオンスタイル umie」では、イオンとしては最大級の食品売り場を配置。約300席のイートインスペースを設けるとともに、同社で取り扱っている食材を使ったレストランを複数設置し、できたてメニューを提供しています。

見直しを進めているのは、店舗づくりだけではありません。8月にはプライベートブランドの「トップバリュ」において、パックご飯やトイレットペーパーなど生活必需品114品目で値下げを実施。その甲斐あって、トップバリュの値下げ商品は売上高で3割の増加となったといいます。

これまで、トップバリュ全体の売上高は右肩下がりの状況が続いていました。ですが、2017年度第3四半期になって前年同期比0.8%増と、ようやく底を打った形となりました。

「今はトップバリュの中身を変えている最中で、変えた商品についてはものすごい勢いで伸びている。3月頃には、圧倒的にお買い得なナンバーワンカテゴリーで、もう一段クオリティを高めた企画を投入したい」と、イオンリテールの岡崎双一社長は意気込みます。

6年前とは程遠いGMSの現状

こうした企業努力の末、過去最高益の2011年度に匹敵するペースで利益を上げてきた、今年度のイオン。その姿は、はたして“完全復活”といえるのでしょうか。

前年同期比での増益に大きく貢献したGMS事業ですが、9カ月間累計の営業損益は215億円の赤字となっています。グループ全体の営業利益1,027億円のうち、7割以上を稼いでいるのはイオン銀行などの総合金融事業とイオンモールを核としたディベロッパー事業です。

つまり、イオンといえば誰もが最初に思い浮かべるGMSは、確かに快方に向かっているけれど、まだ銀行やモールという松葉づえに支えてもらっている状態というわけです。過去最高益だった2011年度はGMSが全体の営業利益の4割を占めていたことを考えると、完全復活と呼ぶには早計かもしれません。

年末年始の売れ行きについて、岡崎社長は「年末は前年より2~3%、年始は7%近く良かった。全体的に景気は良くなっているが、顧客の動向は二極化している。プライスコンシャス(価格を意識した)の人のほうが多く、ドラッグストアやディスカウンターとの価格競争は激しい。そこで負けた企業にお客さんは来なくなる」と、気を引き締めます。

価格の安さが売りのリアル店舗という“前門の虎”だけでなく、アマゾンをはじめとしたネット通販という“後門の狼”にも対峙しているイオン。こうした現状を意識してか、2020年までにグループ売上高に占めるネット通販の比率を12%まで高める(2016年実績は0.7%)としていますが、出遅れ感は否めません。

むしろ、完全復活のカギは「リアル店舗だからこその体験提供の徹底」と「トップバリュ刷新による商品力のさらなる強化」なのではないでしょうか。

(写真:ロイター/アフロ)

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