はじめに

人手不足が深刻化する中で、24時間営業をやめる飲食店が増えています。しかし、その逆を行っているのが、ドラッグストア国内最大手のウエルシア薬局です。

もともと基本は午前0時閉店で、今も大半の店舗がそうなのですが、2015年4月に策定した中期計画で既存店の一部を24時間化することを表明。ウエルシアの店舗数は昨年11月末時点で1,534、シミズ薬局などグループの薬局も含めると1,662ありますが、このうち121店舗が24時間営業です。

24時間店舗は普通の店舗とどう違うのか。そして、時流に逆行して24時間化を進める理由とは何なのか。ウエルシアの戦略をひも解いてみましょう。


24時間店舗はどんな品ぞろえか

通常のウエルシアの店舗では、薬、化粧品、トイレタリー商品以外に、加工食品やお酒といった商材も置いています。24時間営業の店では、これらに加えて、サンドイッチやお弁当、総菜類も取りそろえているのです。

筆者の自宅近くの店舗も以前は午前0時閉店でしたが、最近24時間営業に変わりました。以前から缶詰や調味料など常温陳列の商品に加え、チルドケースで飲料、乳製品、お豆腐なども置いていました。

それが24時間営業に切り替わると同時に、レジの近くに小型のチルドケースを増設。サンドイッチや弁当類、焼きそば、総菜などが置かれるようになり、常温の菓子パン売り場も拡張されました。

意外と多い深夜・早朝のクスリ需要

時代に逆行する形での24時間化。その目的を会社に聞いてみたところ、「地域の需要に応じて実施している」(同社広報)のだそうです。

夜中に熱が出た、歯が痛み出したなど、救急車を呼んで病院に行くほどではないけれど、ちょっと薬が欲しいという需要が、深夜や早朝に多いそうです。それに応えるのがもともとの目的だったようですが、早朝に散歩に出るシニアの朝食需要もあるといいます。

創業当時から「地域の皆様の健康で豊かな生活応援」を標榜しているので、店長に与えられた仕入れの裁量は広めらしく、要望に従っているうちに取扱商品が拡大。公共料金の収納代行も行うようになりました。

店舗の立地によっては、肌着なども扱っているようです。これも「駅前のスーパーが閉店してしまい、肌着が買えなくなった」と顧客に言われたからとのこと。つまり、24時間化するのは、すでに一定の顧客がついている既存店のうち、顧客の要望がある店なのです。

スーパーとコンビニの隙間を狙う

こうなると、スーパーともコンビニとも競合しそうです。実際、全国紙がウエルシアの24時間化を取り上げた記事の中で「コンビニに対抗」と報じられています。

しかし実際に会社に聞いてみると、「どちらにも対抗しようなどとは思っていない」(同社広報)そうです。

ウエルシアの店舗立地は郊外や住宅街が中心。駅前立地が基本のスーパーとは立地が違いますし、コンビニとは店舗の面積や品ぞろえが異なります。あくまで顧客の要望に応えているだけ、だそうです。

もっとも、要望があるからといって、すぐに実施できるわけではありません。昨年4月に策定した2020年2月期までの新中期計画で、24時間営業の店を1年間に100店舗のペースで増やしていく、つまり2020年2月末時点で、現状(2017年2月末時点の92店舗)の4倍強にあたる400店にする計画でした。

しかし、昨年11月末時点で121店舗ですから、計画は遅れ気味。ネックになるのは人材かと思いきや、販売スタッフの採用はなんとかなっているそう。一番ネックになるのは、店の入居先の建物のオーナーだといいます。深夜から早朝にかけての時間帯に店が開いていることに、防犯面での不安を抱くのでしょう。

薬剤師の確保が課題

24時間化で残る課題は薬剤師の確保です。ウエルシアでは全店で調剤室の併設を目指しているものの、実際に調剤室が併設されている店舗は全店舗の66%に留まっています。

また、24時間営業の121店舗で24時間調剤室が開いている、つまり薬剤師が常駐している店は、未だにその1割程度でしかありません。その意味では、24時間化を始めた当初の目的は達成できていないことになります。

このため、昨春は300人、今春は350人の薬剤師を新卒採用しています。医師会や厚生労働省では薬剤師過剰論がささやかれているようですが、「ドラッグストア業界では(薬剤師は)争奪戦になっている」(同社広報)そうです。 

あらゆる業界で、顧客ニーズに応え続けているうちに、取り巻く環境が変化し自分の首を絞めることになり、揺り戻しが来ている昨今。逆張りながらも需要を見極めたうえでの24時間化は、実は石橋を叩いて渡る戦略なのかもしれません。

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