はじめに

本州・四国でイオン、イオンスタイルを展開しているイオンリテールが3月29日、レジで少額の現金を引き出すことのできる「キャッシュアウトサービス」を4月から開始する一部店舗を公表しました。

政府主導で推し進めようとしているキャッシュレス化の動きとは正反対に映る、この取り組み。どのような狙いが潜んでいるのでしょうか。


最大3万円を引き出し可能

今回、イオンリテールが始めるキャッシュアウトサービスは、イオンのサービスカウンターのレジにおいて1回当たり最大3万円を1,000円単位で自分の銀行口座から引き出せるというもの。当面の間、引き出し手数料は無料です。

まずは本州のイオン、イオンスタイル、移動販売車の43店舗で4月2日から開始(移動販売車は4月3日、下表)。2020年2月末までに、本州と四国の約400店舗へ順次拡大していく予定になっています。

1店舗当たりの対象レジは2~3台程度を想定。引き出し可能時間は、サービスカウンターの営業時間内、かつ、各金融機関のデビットカード利用可能時間に準ずるといいます。利用可能な金融機関は国内の約430の金融機関で、今後も順次拡大予定です。

導入の背景に国の規制緩和

それにしても、冒頭でも触れたように、国を挙げてキャッシュレス化を進めている中で、こうしたサービスを導入したイオンリテールの狙いは何なのでしょうか。同社の広報担当者は、こう説明します。

郊外や過疎化・高齢化が進む地域のお客さんから「身近な場所にATMが少ない」「買い物をする前に、わざわざATMに立ち寄るのが面倒」といった声が寄せられていたといいます。「キャッシュレス化といっても、現金が必要なシーンはゼロにはなりません。レジで現金が引き出せると、お客様の利便性向上につながると考えました」(広報担当者)。

こうして導入されたキャッシュアウトサービスですが、その背景には国の規制緩和という事情もあるようです。

今回のイオンリテールの取り組みは、4月2日に日本電子決済推進機構がスタートさせる、Jデビットのキャッシュアウトサービスをいち早く取り入れた格好になります。これは、2017年4月に施行された銀行法施行規則の改正に伴う規制緩和を受けたものです。

キャッシュアウト自体は、米欧で以前から幅広く利用されていたサービスになります。メリットがあるのは利用者側だけではなく、加盟店にとってもATMを設置するよりも安いコストで同様のサービスを提供できるなどの利点があります。

このサービスが拡大することで、これまで現金払いしていた人をデビットカード決済に誘導する効果が期待されています。いつでも簡単に現金が引き出せるようになることで、多額の現金を持ち歩く必要がなくなり、結果として日本のキャッシュレス化が進むと見る向きもあります。

レジがますます混雑する?

とはいえ、ネット上では、今回のイオンリテールの取り組みについて、疑問の声も上がっています。その1つが「イオンの店内にはイオン銀行のATMがあるので、キャッシュアウトは不要ではないか」というものです。

この点について、前出の広報担当者は「買い物のついでに現金が引き出せると、ATMに立ち寄っていただく手間が省けるので、利便性は高まると考えています」と回答します。

もう1つ話題になっているのが「キャッシュアウトの導入は、ただでさえ混んでいるレジが、さらに混雑する原因になるのではないか」というものです。

こちらについては「まずはどの程度の需要があるのか、見極めたい。店内にはイオン銀行のATMもあるので、大丈夫ではないかとみています」(同)とのこと。また、今後は利用状況などを踏まえて、対策をとっていく方針だといいます。

第1弾として導入したのは、Jデビット決済の認知度が高いエリアと、現金化のニーズがありそうな地域の店舗だそうです。ニーズとしては地方のほうがより高いと考えられ、第1弾の店舗での利用状況を見ながら、どのレジに導入するのがいいか、見極めていくといいます。

海外に比べて遅れているとされる、日本のキャッシュレス化の動き。キャッシュアウトサービスは逆説的に、キャッシュレス化が加速する“嚆矢”になるのでしょうか。イオンでの今後の利用状況が気になるところです。

この記事の感想を教えてください。