はじめに

1万円札でいうところの「諭吉」のように、古今東西、紙幣や硬貨には“通称”がつきものです。前回の記事(「諭吉、ウラシロ、ジャイアンツ、紙幣の通称いろいろ」)では“紙幣”の通称について紹介しましたが、今回は“硬貨”の通称を紹介しましょう。

また、これに加えて「紙幣と硬貨とで“通称の傾向”に違いはあるのか」という分析もやってみたいと思います。前回と同様、取り上げる硬貨は日本円、米ドル、英ポンドの3種類とさせてください。


額面に基づく通称:2分の1、4分の1、10分の1

紙幣で“額面系”の通称(1万円札を意味する「万札」など)に存在感があったように、硬貨にも額面系の通称がたくさんあります。ただ硬貨の場合、紙幣とはちょっと異なる傾向が存在します。「割合」に基づく表現が多いのです。

例えば、米ドルの10セント硬貨のことを「dime」(ダイム)といいます。大本の語源はラテン語のdecimaで10分の1税(中世の農民が教会に「自発的に捧げていた」とされる税)の意味。1ドルの10分の1が10セントとなるので、これをdimeと呼ぶわけです。

また、米ドル25セント硬貨の場合は「quarter」(クオーター)と呼びます。もちろんquarterは4分の1の意味ですね。そして米ドル50セント硬貨の場合は「half dollar」(ハーフダラー)と呼びます。これも文字通り、1ドルの半分を意味するわけです。

このように米ドルの硬貨では、1ドルを基準にした“割合”が通称となるパターンが多いようです。かつては英ポンドでも「half penny」(2分の1ペニー)という硬貨の呼び方があったようなので、これらは欧米に共通する呼称感覚なのかもしれません。

色・柄に基づく通称:なつかしのギザ十

さて紙幣で“色・柄系”の通称(旧200円札の通称「ウラシロ」など)があったのと同じように、通貨にも色・柄系の通称があります。

まず色に基づく通称では、かつて米ドルの1ドル硬貨を意味した「silver dollar」(シルバーダラー)や「golden dollar」(ゴールデンダラー)などの例があります。これらは双方とも、素材ではなく色が銀や金に似ていたことからこのような呼ばれ方をしていました。素材由来の話はまた後ほど。

一方、柄に基づく通称の代表例は、日本円の10円硬貨にかつて存在していた「ギザ十」(ギザじゅう)でしょう。これは1951年(昭和26年)から1958年(昭和33)にかけて製造されていた10円硬貨のこと。現在発行されている10円硬貨とほぼ同じデザインなのですが、唯一「縁(ふち)の部分にギザギザした溝が掘られている」特徴がありました。収集的な価値はあまりないとされますが、それでもこの硬貨を見つけると喜ぶ人は多いようです。

もうひとつ日本円には「筆五」(ふでご)との通称を持つ硬貨もあります。これは1949年(昭和24年)から1958年(昭和33年)にかけて製造されていた5円硬貨のこと。表面にある「五円」の文字が、現在のゴシック体ではなく楷書体で刻まれていたことに由来します。

肖像に基づく通称:女性参政権のキーパーソン

さて紙幣と同様、硬貨にも“肖像系”の通称があります。欧米の硬貨には肖像を刻印しているものも多いので、その分、通称も登場しやすいのでしょう。

例えば1979年から1981年にかけて製造された1ドル硬貨には「Susie」(スージー)という通称がありました。これは硬貨の表面に、女性参政権の獲得で活躍したスーザン・B・アンソニー(1820年~1906年)が描かれていることに由来します。ちなみにSusieは、Susan(スーザン)の愛称としてよく登場する言い方ですね。

このほか、米国の歴代1ドル硬貨には――これは一般の通称というより、関係者が歴代硬貨を区別するために用いる呼称といった感じですが――それぞれ肖像に基づく独自の通称が存在します。たとえば1840年~1873年に発行された硬貨は「Seated Liberty dollar」(シーテッドリバティダラー:女神像に由来)、1971年~1978年に発行された硬貨は「Eisenhower dollar」(アイゼンハワーダラー:第34代大統領に由来)、2000年以降に発行された硬貨は「Sacagawea dollar」(サカガウィアダラー=米建国時の重要人物であったネイティブアメリカンの女性に由来)と呼ばれています。

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