はじめに

国内フリーマーケットアプリ最大手のメルカリは7月31日、フリマアプリの利用に伴い、商品の発送や修理といった周辺サービスの利用が増えたことで、その経済効果(*注1:需要創出効果)は最大で年間752億円にのぼるとする試算・調査結果を発表しました。中でも注目すべきは、洋服や靴などのリペア・サービスへの影響だと言います。


再販価格、交換価値を意識して買う人々

メルカリは、7月初め、慶應義塾大学大学院経営管理研究科の山本晶准教授監修のもと、全国のフリマアプリ利用者1032名(*注2:調査概要を参照)を対象に「フリマアプリ利用者における消費行動の変化」に関する実態・意識調査を実施しました。

この調査結果によれば、フリマアプリの利用前後で利用頻度が最も増えた店・サービスは「郵便局」。次いで「コンビニ」で、どちらも商品発送を目的とした利用頻度が増えていました。これらに続いて、物品を包む包装資材を買うために「100円均一ショップ」の利用も増えていることがわかりました。


*提供および調べ:メルカリ

利用金額でも前後比較をしたところ、最も金額増が大きかったのは「クリーニング」で683円増。次いで「洋服のお直し」が539円増。さらに、出品前に自分で修理をするための資材を買うことにより「ホームセンター」の利用額が533円増と、総じて、リペア(修理)・サービスを中心に利用額が増えていました。


*提供および調べ:メルカリ

これらの店・サービスの利用は、フリマアプリで購入した後の修理のための利用もありますが、おもに、より賢くなった出品者が価格価値をあげるために出品前に古着をクリーニングに出したり、修理を利用する傾向が見て取れます。


*提供および調べ:メルカリ

リペア・サービスに対する今後の利用意向でも、調査対象者の42.5%が「修理が必要だが、まだ使えるモノを修理して出品してみたい」と答えており、特に20代では51.9%が利用したいと考え、4つの年代中、最も高い利用意向を示しました。

調査の監修を行った山本准教授によれば、「想像以上にリペア・サービスを活用して出品するようになっているという印象。使用できなくなったら処分するのではなく、当然のように修理して売るという新たな行動が生まれつつある」。

また、買いたいものがある時には真っ先にフリマアプリを立ち上げて、商品の相場価格の参考にする消費者も増えており、「新品を買う時に、修理してフリマアプリで売った時の再販価格も含めて、購入を検討するようになっている。使用価値だけでなく、取り引きしたときに発生する交換価値を考えて買っている」と現状を分析しました。

3%増は流行現象としては大きい数字

調査結果のまとめとして、周辺サービスの年間の消費額は1人あたり平均で約4143円増。推計1814万人とされるフリマアプリ利用人口にこの金額をかけると、年間で最大約752億円の周辺サービス業界への需要創出効果が見込めると試算しました。

調査結果の発表会では、小泉文明・メルカリ社長兼COOと山本准教授に加え、靴の修理のミスターミニットなどを展開するミニット・アジア・パシフィックの迫俊亮社長CEO、消費動向分析などを行うカルチャースタディーズ研究所の社会デザイン研究者・三浦展氏の4人によるパネルディスカッションも行われました。

調査結果に対して、三浦氏は「リペア・サービスの中で、靴・カバン・時計の修理の利用頻度は3.6%増で、郵便局の43.9%増に比べるとわずかな数字と思うかもしれないが、流行の兆しを表す数字としては3%は非常に大きい」と補足。

なぜなら、「渋谷や原宿のストリートを1時間に1000人が歩いたとすると、そのうちの3%である30人が同じTシャツを着ていて、2分に1人、同じTシャツを着ている人を見ることになる。これは、ものすごく流行っているということ」と説明しました。

また、迫社長も「この1年くらい、店舗ヒアリングで非常に多く上がってくるようになったのが『メルカリで売れそうだから、修理に持ってきた』とか、実際に店舗でアプリを開いて商品写真を店員に見せながら『この傷は直せるか。直せるなら価格はいくらか』と聞かれる事例だ。3年前までは、まだそういうことは聞いたことがなかった」と発言。

「メルカリでミスターミニットを検索すると、『ミスターミニットで修理済み』といった商品紹介例も最近は非常によく見る」と、フリマアプリによってリペア市場へのポジティブな影響が出ている現状を強調しました。

一次流通の値段を上げる効果を期待

小泉社長は「環境省のデータによれば、家の中のモノの7割が非稼動だと言われている。フリマアプリとリペア・サービスによって、モノの稼働率を上げるのと同時に、メルカリのようなフリマアプリとその周辺業態によって二次流通がうまく回っていく中で、一次流通の(商品の)値段を上げていくことができないかと思っている」とさらに大きな経済効果に関しても言及しました。

実際に、アパレル分野では高単価の商品が売れるようになってきているとし、「車と同様に、二次流通の場とそれを支えるリペア産業の活性化によって、大量消費ではない、サステイナブルな社会が実現できるのではないか」と期待を寄せました。

仮に二次流通の活性化によって、新品やより希少価値の高いブランド商品の価値・価格が上昇したとして、その経済的・社会的影響は良い影響だけとは限りません。また、本調査報告では、利用頻度や金額が減った業界やサービスに関する詳細の調査・言及はされていないため、“メルカリ経済圏”の経済効果は、これだけでは測れないところがあります。

一方で、メルカリの総ダウンロード数は、国内外合わせて今年3月には1億件を超え、月間アクティブユーザーは1030万人。7月には累計出品数も10億品を突破し、2018年6月期第3四半期までの流通額は国内外合計で2660億円、第3四半期の流通額は1000億円で伸びていることから、年間流通額は4000億円に迫る勢いとも言われています。

経済産業省の今年4月の市場調査によれば、フリマアプリ市場規模も2017年は4835億円、前年比58.4%の拡大を示しています。メルカリとフリマアプリ双方の成長速度や規模拡大の速さからみれば、周辺サービスや競合を含めた関連業態に与える影響は今後も少なくないことは容易に推測されます。実際のモノの価格や関連サービスの業績変化に注目したいところです。

*注1:経済効果は、クリーニング店の洗剤や時計の部品などの「波及効果」に関する数値は含まず、「直接効果」のみを算出した「需要創出効果」を指す。

*注2:調査概要 調査時期 :2018年7月6日(金)~7日(土) 調査方法 :インターネット調査

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