はじめに

前回「お金が絡むと現れる男女の溝は何?“恋愛とお金の関係”」 に引き続き、お金をめぐってすれ違う男女の心理を、“失恋ホスト”としてのべ1000人以上の恋愛相談に立ち会ってきた恋バナ収集ユニット「桃山商事」の清田代表にうかがいます。後半のテーマは、恋人同士で話題になると気まずくなるネタNo.1の「年収問題」。旧来の結婚観や広がる賃金格差、妊娠出産にともなう心理ギャップなど、無数の隔たりがあるなか、男女は歩み寄ることができるでしょうか。


稼げない男、稼ぐ女はモテないのか?

——前半では、割り勘問題のお話を伺いましたが、男は稼がないといけないという価値観がまだまだ強いのですね。男性が収入の話題を嫌うのもそれが大きいのでしょうか。

清田代表(以下同):男性にとってセンシティブな話題ですもんね……。「収入は男の価値を表す」という考えがベースにあって、その話になるとプライドが刺激されて競争の意識が発生したり、逆に「お前は稼ぎが足らねえ」と責められてるような気になってしまい、勝手に傷ついたり腹を立てたりしてしまう。

収入って職種や経済状況、あるいは発注者/受注者などの立ち位置に左右される部分が多く、単にその人の実力を反映したものじゃないですよね。しかも今の時代はほとんどの人が金銭的な不安を抱えている。でも、特にアラサー世代以上の男性には、旧来的な価値観を吸い込んで育ったため、「収入は男の価値を表す」という考えを内面化してしまっている人は少なくないと感じます。

お金は大事なものだし、たくさん稼げたらいいなと思いますが、例えばフリーランスの文筆業である僕の場合、桃山商事の活動を執筆のメインテーマにするとなると、体力的な限界まで働いたとしても年収400万円がいいところです。これ以上増やすためには、予算の潤沢な広告仕事を増やしていくしか差し当たって方法はありません。

数字だけに囚われてしまうと、どれだけ稼いでも原理的に際限がなくなりますよね。600万の年収がある人でも「もっともっと」と考えてしまえば満足できないだろうし、例えば以前、大企業勤務の恋人に引け目を感じ、「俺なんかより年収1000万クラスの同僚と付き合ったほうがいいんじゃん?」と言ってしまった男性の話を聞いたことがあります。彼だって500万〜600万くらい稼ぐ立派な会社員なのに……。

前編の話と重複しますが、やはり自分がどういう人生を望んでいて、それを達成するためにはいくらぐらい必要で、そのためにはどう働いていけばいいのか……ということをちゃんと考える必要があるんだと思います。僕は一生お金持ちになれる気はしませんが、今の仕事や生活は自分が望んだものでもあるし、大きな不満はありません。

——そこに行き着くまでは葛藤があった?

実家も自営業だし、正直そこまで年収にこだわりはなかったんです。6年前の失恋があったときに、「お金がないと結婚できないってことが本当にあるんだ!」と、収入で人の価値を計る考え方が実在したことにびっくりしたぐらいで。「年収なんて運にも左右されるし、浮き沈みがあって当然」と考えられるのは、気楽な自営業の利点だと思います。

でも企業勤めの場合はそうは行きませんよね。年収が所属する業界や会社の大きさなどとも関連してきちゃうし、同期でも働きぶりで年収に差がついてしまう。稼ぎが自分の評価と直結していると、どうしたってセンシティブな問題になってしまいますよね。ちょっとしたことでプライドが傷つき、不機嫌になってしまうことも多々あると思います。

もっとも、そこを女性がケアしてあげる必要はないと思うんですよ。「収入は男の価値を表す」という考えを作り出しているのは他ならぬ“男社会”なわけで、本来なら男性自身が相対化して乗り越えていかねばならない問題だと思います。

相手を知るならお金について語るデートがいい!?

——収入でランク付けされるのに敏感な男性がいる一方で、女性に対して年齢や外見でランク付けすること対しては鈍感な男性を一部で見聞きします。

確かに……。とりわけ2ちゃんねる的な世界やYahoo!ニュースのコメント欄(ヤフコメ)などに生息する男性に多く見られる傾向だと思いますが、「女はどうせ高収入の男が好きなんだろ」「結婚したら嫁のATMになるだけ」などと女性に呪詛の言葉を吐く一方、「女は若ければ若いほうがいい」「優しくて巨乳が理想」などとナチュラルに語ったりする。

男性を収入で計るのも、女性を年齢や外見で判断するのも、どちらも旧来的なジェンダー観であり、それに縛られるのがイヤなら相手をそれで縛るのもダメだろって話だと思うんですけどね……。

ただ、そういう価値観が根づいた社会で生きているとそれを自然に吸い込んでしまうため、女性自身も「若さは価値」という考え方を内面化してしまう。それってキツイですよね、歳を重ねるほど価値が目減りしていくと感じてしまうわけで。その価値観に則ると、0歳が最強という話にもなってしまう。

そう考えると、マッチングアプリってちょっと恐ろしいですよね。写真のみで判断されてしまうことも多いし、年収や年齢で絞り込みをかけられるため、「年収何円」や「何歳」という数字で足切りされたりしてしまう。その人がどんな性格で、どんな価値観を持っているか、ほとんど見られないままジャッジされる場合が多いわけです。

個人的には、年収や年齢といった数字よりも、相手の様々な側面を見た上で、「この人となら楽しくやっていけそうだな」「この人は話が通じるな」「この人のことをもっと知りたいな」という感覚を頼りに相手を選んだほうが幸せな結婚に近づけるんじゃないかなと思っています。

お金との付き合い方もそのひとつですよね。前編でも述べたように、そこには育ちやスタンスが反映されます。例えばたくさん稼いでいる人でも、浪費グセがあって全部使っちゃう人かもしれないし、自分への投資ばかりにお金をかけ、他者にはいっさい使いたくない人かもしれない。あるいは、仕事が忙しすぎて相手との関係性を育む時間を持てない可能性もある。お金持ちならぬ“時間持ち”という考え方もありますからね。

だから、お金の話はタブー視されがちだし、いきなりその話をするのは難しいけど、何回かデートを重ねた後に、どこかでがっつりお金の稼ぎ方や使い方について飲みながら語り合ってみるのも大事なんじゃないかと思ってます。

[PR]NISAやiDeCoの次は何やる?お金の専門家が教える、今実践すべきマネー対策をご紹介