はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は野瀬大樹氏がお答えします。

一昨年に祖母が亡くなり、相続が発生したため相続税を納めました。相続税そのものは税理士さんにお願いして正しく納めたつもりですが、万が一、見解の相違などがあって修正申告することになると多額のお金を支払わなければならなくなりますので心配です。相続税の税務調査はどのような時期に、どのようなかたちで入るのでしょうか? また、税務調査が終わって、もう修正申告をしなくてよいことを知る方法はあるのでしょうか?
(30代後半 独身 男性)


野瀬: 念のため、まずは相続税の流れについて押さえておきたいと思います。

相続税の対象となる人は?

対象となる代表的な資産は、現預金、株(上場・非上場問わず)、不動産などの資産です。

平成27年1月から相続税の改正がなされ、今までは相続税の対象とならなかった人も対象に含まれるようになりました。

具体的には相続する財産(株や不動産含む)が5,000万円を超える程度の人でも相続税の対象になる可能性があります。都会でマイホームを持っている方であれば、超える人はたくさんいそうですね。

「でも、黙っておいたらいいじゃないかな。預金通帳や証券口座って人に見せたことないし」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、税務署の捕捉能力を見くびってはいけません。

税務署はなぜ私の資産を知っているのか?

まず、ある人がお亡くなりになると、基本的にその情報が税務署に伝わります。ですから、「あれ? 身内だけで葬儀をしたのに」と思っていても税務署から相続税の申告書フォームが届くことがあるのです。

さらに税務署は確定申告や証券会社、銀行から届く情報で、みなさんのある程度の資産額を把握しています。

なにも違法に個人情報を集めているのではなく、たとえば株の売買なら30万円超、不動産なら100万円以上の取引で証券会社や不動産屋は調書を税務署に提出する義務があるのです。

確定申告についてのご相談に対し、「すでに源泉徴収されている株取引について、いくら少額のお金が戻ってくるからといっても確定申告するのはあまりおすすめできません」と、私が言うのはこのあたりが理由です。

「源泉徴収ありの特定口座」であれば、配当に関する情報は税務署に届かないのに、ほんの数千から数万円の還付を手に入れるために、あえて自分の株の情報を税務署に連絡する……ということが、長い目でみたらあまり得ではない気がするのです(脱税を推奨するものではなく将来「痛くもないハラを探られる」のを防ぐためです)。

そして基本的に10カ月以内にすべての申告と納税の処理を完了させる必要があります。

めんどうなのが、法定相続人が海外にいたり、所在不明だったりで連絡が取れない時です。こういったことがないために「縁起でもない」と思わずに、日頃からご両親亡き後のことを兄弟姉妹の間で話し合っておくことが重要です。

税理士と弁護士、どちらに相談する?

相続税の申告書は、所得税の申告書とは異なり、おそらく個人で作成するのは無理です。税理士か弁護士に依頼にするとよいでしょう。

税金の申告だけでなく、不動産の登記の変更等も必要ですので、結局、税理士も弁護士や司法書士に依頼することになります。

「では、弁護士と税理士、どちらにお願いすればいいの?」という質問をよく受けますが、「どちらも相続に詳しい」という前提でコスト面を考えると、私の感覚では税理士にお願いしたほうが割安なことが多いです。

お客さまからの依頼を受けて見積書を取ったのですが、税理士と弁護士で5倍ぐらいの差があることもありました。

税務調査が来る家、来ない家

実は私の実家にも相続税の調査が入ったことがあるのですが、その時、調査官に言われたのは「こんなに相続が少ないわけがない」ということでした。

祖父は会社を経営していたので、世間的にはお金を持っているというイメージがあったのだと思います。

しかし田舎の経営者というのは冠婚葬祭や交通費で都会の人が想像できないような出費がかさむのと(笑)、家が非常に古い日本家屋でしたのでメンテナンス費用が膨大になり、現金はさほど残っていなかったのです。

「そんなハズはない」と蔵の中の箱まですべて調べられたのを記憶しています。

金の延べ棒でも出てくると思ったのかもしれませんが、出てきたのは虫に食われた古い布団や、日曜大工が好きだった祖父の道具箱など。結局、大きな指摘や修正はありませんでした。

会社経営者は第一に評価が比較的高い自分の会社の株を持っているので、それが相続税の対象となるのと、オーナーでもあるので給料など会社との取引でお金を貯めやすいと見られているようです。

ゆえに「会社経営者」は相続の調査が入りやすい分類の人と言えるでしょう。

修正申告をしないためには

「修正申告を不要にするためにはどうしたらよいか?」

教科書的な答えをすれば「優秀な税理士さんにお願いしてください」としか言いようがないのですが、それではおもしろくないので少し補足したいと思います。

(1)金額面

やはりといいますか、税務署が目を光らせているのは金額が大きな相続です。

特に5億円以上の相続は国税の対象にもなると言われており、注意が必要です。逆に言うと金額の小さな相続は、調査・修正のおそれはあまりないでしょう。

(2)種類面

現金や上場株であれば、その評価額が1円単位までハッキリしているので、税務署も突っ込みようがないのですが、非上場株や不動産の場合、人によってその評価の見解が分かれることがあるので、税務署としては突っ込みたくなるところです。

先ほどの話の補足になるのですが、この点については「弁護士のほうが強いのでは?」と思うことがあります。

税理士も土地や株の評価についての資料を作成するのですが、この資料を弁護士さんに作ってもらったほうが、税務署の人もスピーディに資料を受け取る傾向があるのです。

税理士である私としては悲しいところですが、財産目録の作成などは弁護士を利用するのもいいかもしれません。

(3)数字面

最近は税務署も進化しており、申告の内容はすべてデータ化されます。

そしてそのデータを分析して、ほかの案件とくらべて異常となった場合に調査の対象になるのです。

ですから、生前の年収が5,000万円あったのに、申告額が5,000万円しかないような方がいたら税務署も「???」となるわけです。

税理士に関する書類添付制度について

最後に「税理士に関する書類添付制度」についてです。

これは定められた書面を相続税の申告書に添付することで、税務調査に入る前に担当の税理士に反論の余地を与えるというものです。

税務調査があった場合、ボロが出るのは税務署の質問に、不慣れなためうまく答えられずドンドン突っ込みが入るケースです。

こういった場合、この書面添付制度を利用することによって事前に税務署から担当税理士に照会が入り、もし税理士がうまく答えることで税務署の疑念が晴れたら調査が入らなくなるわけです。

比較的新しい制度ですので、こちらもぜひ利用したいところです。

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