はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は野瀬大樹氏がお答えします。

現在62歳、子供は自立しています。2年ほど前に定年退職して、現在は個人事業主として仕事を続けています。少なくとも65才までは働くつもりです。資産運用は投資信託のみを行っていますが、株中心から、REITや債券中心の投信にポートフォリオを変えようと思っています。そのほかの方法も含めて、今後の資産運用についてアドバイスをお願いします。


【現在の収入金額と支出金額】
収入:業務委託収入年800万円、企業年金年250万円、厚生年金年200万円 合計年1,250万円
支出:総額年960万円
【収入金額の変化と予測される特別な支出】
今後、40万円ほどの年収増が見込めます。特別な支出は海外旅行くらいです。
【退職後の収入・支出見込み】
2年ほど前に定年退職。個人事業主として仕事を続け、少なくとも65歳までは働くつもりです。
【保有する金融資産】
投資信託890万円、預金380万円
【現在の負債(住宅ローン・借金など)】
特にありません。
【保険契約の有無】
医療保険と生命保険に加入しています。
(60代前半 既婚・子供あり 男性)


野瀬: ご質問ありがとうございます。まずはご質問者の現状把握といきたいのですが、少し見えない部分が多いため把握が難しいところです。

支出総額960万円には、おそらく個人事業の経費も入っているかと思うのですが、経費がどれくらいで生活費がどれくらいなのかが見えてきません。生活費と経費の割合がわからなければ、お仕事を辞められたあと、どれくらいの手取収入があるのかシミュレーションできません。

ただ、すでに65歳ごろお仕事を辞めると決めていらっしゃるようですので、おそらくですが、お金に関してはあまり不安はないのかとは思います。

そのため、今回は「老後資金が足りるか」という視点ではなく、資産や収入金額に関係なく、単純に「資産運用のアドバイス」に的を絞ってお話したいと思います。

“絶対儲かる”投資はない

さて、「資産運用のアドバイスに的を絞る」と大見得を切ったものの、一番難しいのがこれなのです(笑)。

私もよくセミナーなどをしていると、ご年配の方から「先生、絶対に損しない投資先を教えてくれ。1億円でも2億円でも出す。証券会社はケチ臭くて教えてくれない」という依頼を受けることが少なくありません。

しかしながら、投資の世界に「絶対」はないですし、法令上も証券会社の人は「絶対儲かる」「絶対損をしない」という言い方をすることはできないのです。

そのためここでは、「絶対儲かる!」ではなく、私の基本的な投資方針についてお話したいと思います。ご質問者の方とは年齢も違いますが、生きている時代は同じです。いくらかはご参考になると思います。

投資原則1:大儲けは狙わない

私の投資の大原則は「大勝ちは狙わず、その代わり大負けを避ける」という方針です。期待リターンは年率3%に設定して、それを上回ればよしとしています。

当たり前ですが、「この投資をすれば年利15%」などといった誘いはすべて無視します。

ポートフォリオも、基本は6割が現預金、4割が投資(株や投資信託、自宅以外の不動産)程度でよいと思います。だんだん投資に慣れてきても、その割合は6割を超えないようにしましょう。

投資原則2:世の中の大きな流れを考える

円相場にしろ、株価にしろ、不動産にしろ、6~7年ぐらいの周期で「いやいや、いくらなんでも」という相場があります。

それは、日経平均が7,000円台だったり、逆に現在のように2万円台だったり、あるいは円相場が1ドル80円を切っている時です。

私が投資ポジションを動かすのは基本的にそのような時です。実際はピタリと当てることはできないので、動くタイミングは1ドル85円や日経平均1万8,000円などと、少しずれます。

私を含め、一般投資家が複雑化した社会の今後の動向を占うことは困難です。世の中は常に激変することを肝に銘じて、自分の投資能力を過信しないようにしましょう。

投資原則3:再投資を意識する

大切なのは「投資で稼いだ儲けを、もう一度投資する」ことです。

私は基本的に投資で得た儲けは、もう一度同じ口座に入れます。配当はすべて証券口座へ、不動産の儲けは不動産用の口座に入れます。

なぜなら、投資で儲けることができるかどうかは投資の運用成績そのものよりも、「稼ぎを消費しない」ことにかかっているからです。

儲かるとすぐに使いたくなる気持ちはわかりますが、ここはぐっと我慢して、再び投資に回しましょう。

ご質問者の方は年金もしっかり出ているので、基本的に生活に行き詰まることはないかと思います。再投資の心がけは意識されるとよいでしょう。

老後を見据え最低4割は預金で

最後にまとめます。情報が少ないため判断が難しいところですが、ご参考までに。

現状、投資の比率が6割を超えているため、急激に投資を増やす必要はないでしょう。これからは健康も不安な年齢にさしかかりますので、もしもの時のために、最低4割は預金で回せばよいかと思います。

また、投資先については、ご質問者の年齢から実物不動産投資を始めるためには知識や投資規模、融資の可否などハードルが高いですが、たとえばREITを買うことで、ポートフォリオの中に不動産投資を織り込めるようになります。

一方で、債券投資はあまりお勧めできません。債券は流動性が比較的低いので、預金比率が低い現在のポートフォリオに取り込むと、さらに総資産の流動性を落としてしまうからです。どうしても債券投資をしたい場合は、投資信託に債券を織り込むかたちで対応するとよいでしょう。

現状あまり資産規模が大きくないので、現物株を取り入れても分散投資ができません。

お仕事をあと数年続けるとおうかがいしておりますので、3年後にある程度、資産規模が高まってから現物株を買い始めてもよいかと思います。

年金金額など考えても特に焦る必要はありませんので、どっしり構えて、今後も「大きな流れ」を意識して、来るべき時を待ちましょう。

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