テックが銀行を置き去りにする未来?

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8月21日付のFinancial Times(オンライン版)では、期せずしてか、投資銀行も商業銀行も、共にその存在意義がテック系の企業に置き去りにされるのでは、という内容の記事を公開しています。

GoogleやAppleが持つブランド力

一つ目の記事は、ジリアン・テットという超著名ジャーナリストによるもの。そのタイトルは「Upstarts prepare to ambush the lords of finance(金融の支配者への攻撃を準備する新興企業たち)」と挑戦的です。

この記事で、著者は2008年の世界的な金融危機以来、規制強化が金融業界に大きな影響を与えてきた一方で、今後は同じ度合いでテクノロジーの力が影響を与えるのでは、と述べています。

その象徴的なプレーヤーの一覧としては、今週ラスベガスで開催されるMoney2020への参加企業があり、既存の大企業に加えて、GoogleやAmazonの他、Kabbage、Lending Club、Ripple Labsといった様々なプレーヤーが、既存の金融チャネルを代替しつつあることを述べています。

とりわけ、Amazon、GoogleやAppleが金融領域において進出していることについては、それまでのベンチャーがもたらしてきた影響とは異なり、財務的にも既存の銀行よりはるかに健全で、消費者からも格段に(銀行と比べて)信頼が厚いことが、今後の強みになる可能性を挙げています。

手元の電話や検索エンジン、毎日使うECサイトを運営し、利用者満足度も極めて高いこれらのプラットフォームがスピード感をもって挑んでいるビジネスは、どの国でも規制業種である銀行業とは圧倒的にスケールの異なる変化であるものと、テット史の目にも映ったのかもしれません。

付加価値が提供できないウォール街

もう一つの記事では、米国のメディア会社の編集者であるFelix Salmon氏によるもの。こちらの記事は「No need for banks in an era of intellectual capital(知的資本の時代に銀行は用無し)」、と更に刺激的なタイトル。

既存のインターネット企業が、本年に入ってからの大型買収において、投資銀行の助けを借りなくなったこと例に、その業態が持つ付加価値が激減したことを述べています。

今年前半だけでも、シリコンバレーでは大型のM&Aが相次ぎ、FacebookによるWhatsAppやAppleによるBeatsなど、累計で1,000億ドル(10兆円)にも上る買収が行われています。
しかし、従来のM&Aと比べると、多くの大型買収において、全く投資銀行を用いられず完了されていることを述べています。

その背景として著者は、今や最も優秀な学生は東海岸の投資銀行には行かず、西海岸で起業し、西海岸のベンチャーキャピタルから出資を受け、西海岸の人材で会社を大きくし、買収を含めて西海岸の仲間内で行われていることを挙げています。

また、AppleやMicrosoftが上場した1980年代には、ベンチャーは株式市場にてお金を調達する側であり、そこから世界的なプレーヤが生まれる仕組みとなっていました。しかし、2004年のGoogle、2012年のFacebookの株式公開に象徴されるように、近年のベンチャー企業のは既に十分な資金を有しており、将来に向けての調達というよりは、既存株主の売却が主な目的となっていったことを強調しています。成長資金は既にシリコンバレーの中にあり、投資銀行が新たに資金源を探してくる役割が低下した、と分析しています。

このことに加えて、SnapChatやWhatsAppの価値計算は、投資銀行の算定レポートでも行えるようなものではなく、ザッカーバーグ氏などの意志決定者の頭の中にしか結論がないケースも増えてきたのだと。旧来の買収におけるシナジー効果などは、シリコンバレーにおける買収のロジックとは無関係となりつつあり、専門的な分析や提案能力すらも、西海岸の企業としては否定される価値なのだと述べています。
 
 
 

これらは、ペイメントやIT企業の資金調達といった、金融産業の一側面だけを切り取った例と、たしかに言えるかもしれません。
また、AmazonやGoogleであっても、クレジットカードや送金など、結局旧来の金融システムに強く依存している、という批判も成り立ちます。

しかし、上記で述べられているように、本質的なニーズや、困っている問題の多くを、銀行以外の仕組みや環境が解決できるようになっていることも事実であり、10年間で業界を一変させるビジネスのスピードを、テック系の産業は兼ね備えています。20年後、50年後の世界まで結論を待つ必要はあるかもしれませんが、金融業界を代表するFT誌が並べて出してきたこれらの記事は、じっくり読んで見るに値する内容だと思えます。

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