9月18日付で、世界最大級のソフトウェア会社SAPが、経費管理の領域において同じく世界的プレーヤーであるConcurを買収すると発表しています。その買収額は83億ドル(約9,000億円)に上るものと見られています。
SAPは従来より、対大企業向けに様々なビジネスソフトをリリースしてきました。一方で、Concurは近年、日本でも利用者を伸ばしている、経費精算の分野でのリーダー的企業です。
特に、Travel & Entertainmentと呼ばれる、経費精算の中でも、旅費の占める部分が大きい領域において、他の追随を許さない展開を行ってきました。既に23,000社の顧客企業を抱える中で、ベンチャー向けにAPIを提供するなど、自社のデータを活かしつつ大きなプレゼンスを誇っています。
Concurによる米国の旅費市場の規模調査を見ると、その大きさに驚かされます。2013年中の統計では、旅費市場は1.12兆ドル(約120兆円)の規模があり、うち、2/3がビジネス目的が占めていました。
平均的な出張者は、一年に5回の出張を行い、その99%が何らかのフライヤープログラムに参加、平均で5,580ドル(約60万円)の出張費を支出しています。この数字は、レジャー目的の旅行者(年に1回の旅行、34%のみがフライヤープログラムに参加)とは大きく異なっています。
また、ほとんどの出張者が週に4時間近く、旅程を決めるのに時間をかけているとのこと。一方で、旅行用のスマホアプリのほとんどがレジャー向けを向いているため、今後の成長余地の中でアプリで最適化された旅程を提示する点一つをとっても、まだ多くの潜在的な価値が眠っていることを主張しています。
さて、買収側のSAPは、他の大手ソフトウェア会社と同じく、長い年月をかけて、旧来の自社内にデータセンターを構えて顧客から利用料を取るモデルから、SaaS型のビジネスの割合を拡充してきました。
2011年には35億ドルにて人事向けソリューションを提供するSuccessFactors社を買収するなど、大型の投資を行ってきています。
このような経緯のある中で、同社はリリースにおいてはConcur買収の意図を15点に分けて説明しています。
ビジネスの拡大
1.企業の旅費関連の市場は1.2兆ドル
2.Concurの有する航空、ホテルやレンタカー等との関係の活用
3.全世界で見た経費支出10兆ドルへのアクセスへのさらなる増大
4.旅程中のバリューチェーンの最適化・旅の簡素化
5.世界の商流の2/3にSAPが関わる中で、よりリアルタイムな処理・最適化を可能とする能力
ビジネスシナジー
6.合わせて5,000万人を越え、企業向けとしては最大のユーザーベース
7.Concurは年商7億ドルであり、世界中にリーチがあること
8.SAPの顧客の大半がConcurを活用しておらず、売上向上が見込めること
9.Concurの顧客のうち30%のみがSAPを活用しているため、SAPの利用者ベースを機会があること
10.旅費市場に関する最大級のデータと、SAPのりアルタムデータ処理能力の組み合わせにより、新たな経費削減余地を作れること
11.旅費市場におけるモバイル端末の独占的な地位を活かして、ネットワーク型の情報処理サービスを提供できること
12.既存のSAPの旅費関連サービスのConcur側への統合
将来成長
13.Concurの2.3万社に登る顧客企業数に向けて、垂直的なインパクトを発揮できること
14.Concurは2012年に、米国の複数の連邦政府機関から15年契約を結んでおり、同様の契約をSAPと契約中の他の機関にも広げられること
15.中小企業向けに、SAP Business Oneのソリューションを広げられること
双方の顧客への浸透度がまだまだ、という点のみをとっても、大きなシナジーが見込めることになりそうです。
そして、よりクラウド化され、問題解決に近く、豊かなデータを有する会社とあれば、年商7億ドルであっても、83億ドルの買収価格も正当化されるのかもしれません。