IntuitによるQuickenの売却

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8月20日に2015年第4四半期の業績を公表した米会計ソフトウェア最大手Intuitは、その長い歴史の中で培ってきた看板商品「Quicken」を売却することを表明しました。

同社は1983年設立の、今や長い歴史を有する会計ソフトウェア会社です。同社は、社名(直感的、という意味を持つ)にも現れているように、卓越したプロダクト体験を分かりやすく提供することを重要戦略として掲げています。特に、注力する二つの領域として

1.スモールビジネスの成功の裏にあるOSであること
2.米国とカナダの納税手続きを行えること

の二つを挙げています。

一方で、Quickenは、創業とほぼ同じ1984年に、日々の支払いを行い、家計簿をつけるためのソフトウェアとして生まれ、看板商品となりました。まだWindowsも普及していない時代から、同社はユーザビリティを主軸に進化を続け、マイクロソフトマネーとの戦いに勝利するなど、Windows全盛の時代に独自ソフトウェア企業としての金字塔を打ち立てる存在でもありました(その歴史についてはInside Intuitという本においても存分に語られています)。

しかしながら、長らく顧客満足を生んでいたQuickenの弱点は、インストール型のソフトというポジションを貫いていた点にありました。また、PFMサービスMint.comを2009年に買収したことで、クラウド版Quickenであった、Quicken Onlineを終息させたことも、Quicken単体で見た場合のサービスの持続性を危ういものとしていました。

このような弱点も逆風もある中、とはいえそれまで毎年約1億ドル程度(約120億円)の収益を貢献してきたものの、2015年度はその金額は5,100万ドルに減少していました。このことに加えて、Quickenが同社が注力するスモールビジネスや納税の分野について、直接には強みを有さないと見られていたこともあり、今回の決定に至ったものと考えられます。

収益性や、競争力重視の原則からすると、後世からみれば当然といえる判断なのかもしれませんが、とはいえIntuitののユーザー重視文化そのものを育んだサービスを売却する姿勢には、特定のミッションに注力する姿勢と、クラウドサービスが持つ未来への自信の現れということができます。

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