米オンラインレンダーを巡る近時の議論

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5月9日、米国のオンラインレンディングの代表格であるレンディング・クラブのCEOであり、業界を代表する人物でもあったルノー・ラプランシュが辞任していたことが明らかとなりました。

まだ詳細は明らかではないものの、様々な報道を元にすると同社が組成・販売したローン債権につき、購入した投資家の指示にも反した内容となっていたほか、一部のローンの申し込み日が改ざんされた形で販売が行われていたことや、元CEOが利益相反の恐れのあるファンドへの投資を行っていた可能性が取りざたされています。

このような状況を受けて、それまでローン債権の買い手でもあったジェフリーズ・グループやゴールドマン・サックスは買取を控える方針も明らかとなっています。特にジェフリーズは、従来から法的な不足点を指摘していたものの、反映がみられてこなかったとの報道もあります。

貸出債権の売却を前提としたオンラインレンディングは、最終的にはレンダー自身が信用リスクを負わない/負いにくい構造となっているため、2008年のリーマンショックを招いたOriginate to distribute(販売のためのローン組成)の問題を繰り返すのでは、とする懸念も昨今では出るようになっていました。今回の件はコンプライアンス上、より明確に問題性が高かった形といえそうです。

同社の取締役会は元モルガンスタンレー会長や元財務長官であったラリー・サマーズを迎えている事でも有名でしたが、今回の件では、そのガバナンス構造における瑕疵も指摘されることとなりそうです。

時をほぼ同じくして、米国財務省は、Opportunities and Challenges in Online Marketplace Lending(マーケットプレースレンディングの機会と課題について)と題したレポートを発表しています。これは、2015年半ばに公募された同省の問題提起に対する返答をまとめた上で、オンラインレンダーにおける現状と課題感をまとめたものとなっています。

その中では、オンラインレンダーに対する課題感として、例えばビッグデータやソーシャルデータを元に貸し付けを行うことで、米国の信用機会平等法(人種や性別等を基にした融資判断の差別をしない規定)に反する事例が出てくる可能性や、自身の情報を改定できないままに、ビッグデータに分析されてしまうリスクが述べられています。

また、他にも、ローンのセカンダリー市場が整理されていないほか、情報の標準化などが図られていない中で、レンダーなどが付す格付けの正確性への懸念も述べられています。今回のレンディング・クラブの件についてもこの延長線の問題ともいえます。見方を変えれば、それだけオンラインレンダーが米国のクレジット市場においても存在感を発揮している中で、一つのアセットクラスに相応しい制度整備が求められている、といえるのかもしれません。

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