英国の銀行APIを通じた競争政策

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英国の競争・市場庁(CMA)※は8月9日、銀行の競争促進に関するレポートを公表しました。

同レポートは708ページと大部に渡るものとなりますが、そのサマリー(といっても55ページあります)と共に、分かりやすく16ページにポイントに解説した文書が公表されています。

ポイント解説のタイトルはラディカルであり、Making banks work harder for customers、直訳すれば「顧客のために銀行に一生懸命働かせるためには」となっています。その内容としては下記が述べられています(以下、意訳。番号は解説文書内の条文番号)

・現在、伝統的な大銀行は個人向けビジネスにおいて、さほど努力しなくても顧客関係を維持することができている(5.)
・一方で、銀行業に参入した、比較的新しい小さな銀行は新しいモデルや革新的な商品を打ち出している(25.)
・過去に提案された競争促進策を含めて、今般その取り組みを加速させていく。最終的にそれが顧客にとってより良いサービスへのアクセスに繋がり、金融サービスに対するコントロール力を向上させるものとなる(6.)
・銀行口座の乗換は現状、個人で3%、法人で4%しか行われていない(9.)
・居住用不動産ローンの市場では、トラックレコードを保有する伝統的な銀行の方が、資本規制上優遇されている側面がある(19.)
・提言の重要な基礎となる要素の一つは、銀行業におけるopen API standardの進展と実行である。API化により、(a)銀行顧客は一つのアプリで複数口座を管理、(b)貯蓄口座と普通預金口座の間での移動を容易にし口座貸越にかかる手数料を低減、(c)利用実態に合わせた銀行サービス比較、(d)資金不足とならないためのモニタリング、(e)中小企業にとっての信用情報の創出、といったことが可能となる(32.)
・仮に良いサービスがあったとしても、小さな銀行がシェアを伸ばすのには時間がかかる。今般の提言で、顧客の意思決定力は高まり、既存の銀行が持つ交渉力を減らすことが可能となる。銀行にとっては、競争力を高めるインセンティブを強化し、新たな銀行やサービス提供者にとっての参入魅力を高めるものとなる(26.)
・CMAは銀行を比較するサービスの普及・促進のため、ビジネスコンテストの後援を行う。また、銀行にその資金面及び技術面での支援を行うように要請する(53.)

この取り組みはAPIを通じて、銀行間のサービス比較や、個人データの利用可能性を深め、金融サービスをより便利にしていこうとする政策意思のあらわれと見ることができます。同時に、これまでスイッチングコストが高いとみられてきた銀行口座サービスに対して、API及び口座乗り換えサービスを経由して、競争政策としてのFintechを活用しようとする、従来から同国財務省が取り上げてきた動きを確たるものとしようとする動きともいえます。

英国での銀行業のAPI化については、2月に公表されたオープンデータ研究所のOpen Banking Standardが丁寧な論点整理を行っており、わが国でも参考とされてきました。CMAのレポートでも、この取り組みの延長線を続けることがその基本路線となっている中で、改めてその内容が注目されます。

また、Brexitのテーマが浮上して以来、英国におけるFintech政策の今後は、より積極化するのか、消極的なものとなるのかはなかなか見えない状態でもありました。
今回のCMAの取り組みは、その中では積極化に向けた一途と見ることもできる中で、今後の世界観に対する期待を持たせるものといえます。

※Competition & Markets Authority、日本の公正取引委員会の一部に相当

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