カンザスの小さな銀行の話

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米Fortune誌は今週、アメリカ合衆国カンザス州の小さな町の銀行の話を取り上げています。

その町の名前はWeir(ウィアー)といいます。Weirは人口たったの661人の町です。

その町に本拠を置く創立124年のCBW(シチズンズ・バンク・オブ・ウィアー)銀行は、2009年、Googleのエンジニアだった夫と、ウォール街の投資銀行に勤めていた妻の夫婦により買収されました。その前年の2008年、同行は米国の預金保険公社による業務停止処分を受けており、そんな状況下で、この夫婦は銀行を個人資産で買った形となります。

その後、CBW銀行は経営再建し、その上で小さな地方銀行という立場から、デジタル革命の核となる機能を提供することとなります。その最たる例は、Simpleのバックボーンを提供したことかもしれません。他にもRippleのパートナーとして、ドイツのFidorなどと肩を並べたりしている実績があります。さらにあのブレットキングの経営するMovenのバックボーンもCBW銀行が担っています。

多数の様々なタイプの銀行がある米国では、このような地域金融機関を買収することの方が、銀行機能へのアクセスを手に入れる上では好ましい環境が生まれています。これは、英国のように自らチャレンジャーバンクとして免許を受ける形とは異なります。

Fortuneの記事で興味深いのは、このような変化を遂げる際に夫のRamamurthi氏がとった一連のアクションです。彼は当初、実際に窓口業務を行ったり、ローンの回収業務を行うなどして業務理解に努めます。そして、その上でバックボーンとなるIT体制を精査する中で、個別のプロダクトが全くシナジーを持っておらず、ベンダーもそれをサポートできない体制であることに気づき、そこから彼のGooglerとしてのセンスが発揮されることとなります。

彼は新たにYantra Financial Technologiesというサービスを創業し、俯瞰的に銀行を経営できるツールを自ら開発します。さらには、既存のサービスの屋上となる次世代型プラットフォームを開発して、CBW銀行においてリアルタイムの顧客情報分析を行うことを可能とします。そしてさらに、みずからコンプライアンスオフィサーとしての「研修」を受け、コンプライアンス体制も自動化。銀行を自動化されたシステムに作り代えることに成功します。

また、CBW銀行は500種類ものAPIを準備中であり、これらを22社の企業がベータモードで利用しているとのこと。米国におけるAPI専業銀行としての地位も担うことになるのかもしれません。

米国では多様な金融機関が競争的な環境に置かれている中で、このようなナローバンク的なアプローチが一つの生存戦略として存在しています。同モデルは、日本の中でもいずれ類似した業務を生むヒントを提供しているようにも考えられます。

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