トランプ大統領とFintech

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大方の予想に反し、大きな反響を呼んだ今週の大統領選結果。米国のFintechはこれからどうなるのでしょうか。

各種メディアでの取り扱い

専門メディアは既に観測を述べています。

Crowdfundinsiderでは、トランプ氏がドット・フランク法に代表される金融規制を全体的な解体・再構築をしようとしている意向について、プラスなのではという見方を呈しています。21世紀版グラス・スティーガル法を打ち出そうとしている同氏は、結局のところCFPBの提唱者でもあるエリザベス・ウォーレンと、銀証分離の観点では大差がないのかもしれない、としている中で、今まで様々なパッチワークでできてきた現制度がゼロから見直されるメリットに注目しています。

Business Insiderは、不確実性の増大が資金調達環境の悪化に与える影響と、Fintech推進に向けた当局の姿勢の軟化、移民政策厳格化に伴う労働力不足を、当面考えられる打撃の内容として述べています。BI誌らしい指摘として、米国のユニコーンのうち51%が移民によって創立されたことを指摘しています。

American BankerのClozel記者による記事では、Fintechへの制度整備がより進むのでは、という見方をしています。Fintechはこれまでの大統領選の中で、直接触れられることのなかったトピックでした。そのような中で、消費者や小規模ビジネスにはFintechは大きな(正の)潜在的影響を秘めているため、あまり反対は受けないのではないか、という意見を紹介しています。また、OCCにて進んでいるFintech型銀行の議論も、来年のカリー長官の退任時期を挟んでその提案が行われる見通しなものの、競争を促進する立場でもあり、大きな影響を受けないのでは、と見ています。また、Operation Choke Pointと呼ばれる、2013年に始まった対テロ・犯罪のイニシアチブにおいて、特定産業に決済手段を提供した金融機関が罰則の対象となってきた中、より業態ではなく、行為に対する規制がもたらされるのではないか、という期待も紹介しています。

決済関連メディアPYMNTSでは、トランプ氏がコンピューターを使わず、デジタル広告を嫌い、過激で有名だったTwitterも彼自身が書いていたわけではない点を取り上げています。また、トランプ氏がAppleに対して取った厳しい態度も含めて、テクノロジーに関する無理解のリスクを取り上げています。

PaymentsSourceというメディアでは、トランプ氏はネットワーク中立性については擁護的である点をもって、Fintechには賛意的なのではとコメントしています。ネットワーク中立性について、共和党はおしなべて反対意見が多い中で、トランプ氏はそれが様々なインターネット上の意見を平等に扱う点を評価しています。多くのFintech企業がオープンソースベースの開発を行い、自由な表現や資金移動の恩恵を受けて拡大している中で、その点がゆがめられない点は重要、とする意見もあるようです。

今後注視されるポイント

ドット・フランク法を含む金融規制体系の見直しは、最終的により「スマートな」規制がもたらされるのであれば歓迎されるべきものといえるでしょう。整理された規制体系は、Financial Innovation Nowがレポートで指摘したような複雑な制度に適応したレガシープレーヤーではなく、より効率的なプレーヤーが良いサービスを提供する土壌となります。当然ながらスマートではない、例えば過度に信用緩和を行い、市場原理を歪める形の規制がもたらされる可能性もあるため、見直し自体が持つ価値は予断を許さないものとなります。

この動きは既存のFintechプレーヤーにとってはやや暗雲ともいえます。調達環境の悪化もそうですが、これまでの金融規制が信用収縮などの環境を生んでいたことも事実です。規制の見直しが結果的に銀行にとって貸出をしやすい環境を生む場合には、これまでシャドーバンクの一種として拡大してきたオンラインレンダーや、P2P市場は大打撃を受ける可能性もあります。P2Pレンダーが元本の一部を保有する義務など、通常の銀行と同様の資本規制を負う可能性もありえるため、広義の規制アービトラージュ業態として生まれてきた産業は、昨年から続いてきたバリュエーションの低下に加えて、中期的なリスクを抱えた形といえるのかもしれません。

一方でポジティブに捉えることができるのは、8年ぶりに「ねじれ国会」状態が解消した点です。一般的なトランプ氏への評価として、ビジネスマンとしての合理的な選択を最終的には採る点が発揮されるのであれば、Fintechは貧困層や若年層に向けて広範に金融サービスを提供できる技術でもあるため、制度整備は進む可能性があります。ドット・フランク法の見直しが主眼として取り上げられる中、消費者利便性の観点でのFintech活用の議論がどれくらい行われるのかが、最大の焦点といえるのではないでしょうか。

これらの情勢は長官人事や、ハネームーン期間に打ち出される政策の色合いから明らかになっていくものとなります。人々の生活を支える金融サービスがテクノロジーの力でgreat againとなることを期待しながら、注視していければと思います。

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