インドにおけるキャッシュレス化政策

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今週11日にWSJに掲載された記事では、インドにおける決済制度の政策案について触れています。

記事では、昨年11月8日に急きょ発表され大きな衝撃を呼んだ、500ルピー及び1000ルピー紙幣の廃止における紙幣の交換期限が過ぎたことに触れています。その上で、政策立案機関NITI Aayogの提言する決済の未来像と、年末より利用可能となった政府のAndroid決済アプリBhimが取り上げられています。

bhim

(出所)Bhimアプリサイトより

Bhimは銀行送金や残高照会が可能となっているアプリです。電話番号自体が本人識別の手段となっており、銀行口座との認証もこれにより可能となっています。また、フィーチャーフォンでも用いることができるという、ユニバーサル性も確保されたものとなっています。※

記事内ではその更なる延長線で本人確認システムであるAadhaarがBhimに紐づけられることで、クレジットカードやスマホすらいらない、指紋だけが必要な決済の世界があるとする、モディ首相の言葉も引用されています。

これらの取り組みは、インドにおけるキャッシュレス社会を目指す方向性を表しています。前述の記事にも登場するNITI Aayog(2015年創設の社会改革を目的とする国立研究機関)が2016年10月に発表した”Citizen Transactions to the digital platform”は、最終的な目的として対政府の支払の100%キャッシュレス化を掲げています。その上で、当面の方向性として80%の取引が電子化されるよう、例えばキャッシュレス支払いにおける優遇策を含めた政策が検討されており、金融や情報通信、産業政策といった様々な中央政府部門と、地方政府のメンバーが参加しています。

昨年の紙幣廃止は、一義的には紙幣の廃止と同様に、ブラックマネーと収賄の根絶に目標を置いていましたがこれらの評価は定かではありません。むしろ、地方経済では多くの打撃もあり、見方によっては四半期ベースでマイナス成長であったとしてもおかしくない、とする論調も見られています。企業のサプライチェーンがこの政策により分断されたほか、消費者も手元に現金を持てなかったことがその背景にはあります。廃止の影響を加味した2016年のGDP統計値の公表も例年よりこの影響で遅れており、これから大きなGDPへの打撃があったことも判明するかもしれません(上記の論調では、その後に反動として回復もあるかもしれない、とも述べています)。

とはいえ長期的に、国民がそのツールを使いこなせれば、ブラックマーケットの根絶と共に、利便性の高さという本来のキャッシュレス化がもたらすメリットが見られていくはずです。NITI Aayogが11月に実施したカンファレンスにおいてビル・ゲイツが行った基調講演においても、デジタルな決済手段がもたらす、生活の豊かさに向けた金融サービスの有用性は大いに語られています。今次の混乱がどこまで継続するのか、このかなり強烈な社会実験の結果は大いに注目されるところといえます。

※なお同アプリのFAQページはある意味便利な決済とは何か、の丁寧な解説ともいえるのでぜひお読みください

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