Fintech時代のシステミック・リスク

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今週、イングランド銀行のカーニー総裁が行った講演において、Fintechが普及した時代におけるシステミック・リスクへの言及がありました。

同講演では、Fintechは金融包摂や安定性をもたらす一面もあれば、例えば「顧客ロイヤルティが銀行に流動性危機をもたらしやすくなる可能性」や、「新たな融資モデルが信用リスクそのものやマクロ経済への影響」も変えうることに言及しています。新たな投資やリスク管理のあり方が、市場機能への変化をもたらしうる中で、政策決定者は機会を最大化しつつ、リスクを最小化する方向性が必要であり、それに失敗してきた歴史もある、と述べています。

カーニー総裁はその昔、商業銀行でテラー業務をやっていたこともあるとのこと。昔は窓口によって担われてきた機能は、今後は例えばAPIを活用したデータアグリゲーターによる価格比較に代わられたり、ロボアドバイザーが投資助言を代わりに提供する、といった文脈に触れ、Financial Stability Boardで進められているFintechのシステミックなインパクト分析の内容を紹介しています。

その分析フレームワークの要点を見ると

・従来からもある取引が形を変えているだけの時には、特別扱いはしない
・金融機関の安定性や健全性を担保できる方向性はどのようなものか
・マクロ経済・金融市場において、新たな破壊的なリスクが生まれていないか
・サイバーリスク・オペレーショナルリスクの総量を変化させるような動きは生まれているか

の4点があげられています。その上で、現時点で捉えられているリスクとして

1.まだ決済プレーヤーはシステミックといえる規模には達していないものの、中央銀行の制度に連携できる仮想通貨システムなどが生まれてくると、この判断は変わってくる
2.クレジットサイクルの観点で、P2P融資がどれくらい安定した信用の供給源となるのか。貸し手がまだ大きな損失を経験していないこの市場の安定性は予断を許さない
3.ロボアドバイザーが増えることで、プロシクリカルな動きを増幅し、市況変動を大きくしてしまう可能性
4.分散型台帳技術における柔軟性・堅牢性・機密性・拡張性の確保
5.金融システムとして、サイバーリスク等への脆弱性をもたないこと

などが重要と述べられています。

上記は、これまではミクロの問題として捉えられてきたFintechのあり方に対して、マクロ経済へのインパクトを探るという、社会的関心のフェーズ移行を感じさせるものとなります。今後のFSBによる検討結果が注目されるものといえるでしょう。

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