信用組合2.0を仕掛ける英Neyber

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今週号のFTのFintechメールマガジンは、ロンドンの新たなオンラインレンダーを取り上げています。

Neyberという名称の同レンダーは、2014年に元ゴールドマン・サックスの社員により設立され、直近インドのWadhawanグループ率いる投資家群から21百万ポンドの出資を受けています。その目指すところは「デジタルな信用組合」であるとされています。過去の2.5年間で65百万ポンドの融資が、同サービスのプラットフォームから行われています。

Neyberの設立にあたっては、The Police Mutual(警察官向けの協同組織)との協働が行われ、警察官という信用力の担保された層に向けて、給与天引き型のローンを開発し、割安な金利提示を可能としています。運用面で用いている名称もユニークであり、Okayな借り手は9.9%、Goodな借り手は6.9%、Greatな借り手は4.9%と、信用力の改善に向けたニュアンスが感じられます。これまでのデフォルトも7,000件中30件のみであり、借り手の母集団で限定することで、新たな価格帯での市場創出を可能としています。借り手側から見ても、通常、消費者向けでは60%が却下される英国のローン市場において、Neyberのローンではその割合が約1/4であり、カードの債務残高やペイデイローンなどに頼っていた借り手にとっては、職場における天引きができる借り換えにおいて、新たな信用力の確保手段が得られたことがメリットと言えます。

このような発想は、信用組合2.0とも言える動きであり、外部のオンラインレンダーが、個別のコミュニティの母集団に対して提案する、新しいリバンドルの形ともいえるでしょう。

現在、Neiberは警察官市場からさらに拡大して、水道会社のAnglian Water、健康保険のBupa、配電事業者のUK Power Networksなどと組み、それぞれの従業員向けのローン提供を開始しています。それぞれの会社では、この割安なローンを、下記のように従業員向け厚生の一つの選択肢として位置づけているようです。


(出所)Neyberウェブサイト

NeyberはFinancial Wellbeing(お金の健康)を社是として掲げており、ファウンダ―のKalia氏が昨年、労働厚生大臣に向けて公開した書簡において、平均的な英国人労働者の5分の1の時間がお金の問題が生むストレスに左右されていること、特に34歳以下の層においては62%の人たちにとって生産性の低下に繋がっていること、などを指摘しています。30%超の人口が、普通預金口座に一か月分の収入すら入っていない現状に照らした時に、金融教育と割安な消費者信用制度へのアクセスはより可能となるべき、と主張しています。

このような主張は、過去には米国でもPFMツールとしてHellowalletが掲げていたモデルを彷彿とさせるものでもあります。大企業においてはなかなか話題とはしづらいものの、実際に借入金があることは精神的なストレスを生むのは事実であり、今後の社会においては、それをタブーとしないことが、雇用者としても求められていくのかもしれません。日本においても同様の問題は無縁ではなく、今後、検討に値するアプローチといえます。

ちなみに、Neyberは、隣人を意味するNeighbourとほぼ同じ発音になるのと共に、英国人にとっては「いいとも」に匹敵する様な日中の定番ドラマ(元はオーストラリアのシリーズですが)でもある言葉です。筆者のみかもしれませんが、30代以上の世代にとってはコミュニティを想起させるにあたり、どこか懐かしい響きを感じるものでもあります。

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