いささか旧聞に属する話題ですが、今年の夏、米国の2大ロボアドバイザー会社ではSRI投資をテーマとしたサービス拡充が行われました。
7月のBarron’s Asiaの記事によれば、二大大手でもあるBettermentとWealthfrontはそれぞれのサービスにおいてSRI投資を可能とするオプションを付すことを発表しています。筆者がこのことを知ることとなった直接のきっかけとなったのは10月6日に送られてきたBettermentのDMで、”Get started with the Betterment SRI Portfolio”という文言がそのタイトルとなっています。
別のBarron’s記事によれば、2015年頃からSRI投資のオプションを提供するロボアドバイザーはいた模様です。最大級のプレーヤーでの実装が始まったことは、一つのトレンドの表れという事ができるのかもしれません。
もともと、ロボアドバイザー業がそのサービスの起点としているパッシブ投資の世界では、最適解と思われるリスク性資産のポートフォリオと安全資産との間で、どのような配分を実現するのか、という古典的な「答え」があります。そこには、投資に対する哲学なども、情報が価格シグナルとして市場に反映されている以上、敢えて付加する必要もない、という考え方があります。
一方で、SRI投資では、投資に対する考え方を反映するものとなり、より望ましい社会実現を推進している会社に投資する(ポジティブ・スクリーニング)ものもあれば、武器やタバコ・アルコールに投資する銘柄を除外する(ネガティブ・スクリーニング)といった判断軸が含まれるものもあります。宗教観や社会参加意欲の強い顧客が多ければ、「満足度の高い」資産運用サービスにおいて、単純なリスクリターン(及びコスト)以外の要素も重要となってきます。
これらの二つの考え方は排他的ではなく、パッシブ投資の世界の考え方からすれば効率性を犠牲にしてでも、社会に対する考えを投資行動に反映したい(その制約のもとでリスクリターンを最適化したい)というものでもあります。もちろん、長期的にはこのような行動こそが、持続的な収益等につながることで、超過的なリターンに繋がる、とアクティブ投資として考える方法もあります。これらの考え方はBettermentのホワイトペーパーでは密に説明されています。
複数の考え方の優劣や整理は本ブログのカバーできる範囲を(能力的にも)遥かに超えてしまいますが、このような新しい軸が持ち込まれたことは、ユーザーの長期的な投資習慣形成に向けての一つの糧となるものかもしれません。社会的に良い投資とは何かを、実際に銘柄を調べたりすることで、家族や周囲と話したりなど、リテラシー向上を促す効果も無視できないものと言えます。
SRIに関するサービス展開は筆者が調べている限り、日本のロボアドバイザーの世界ではまだ見られていません。テーマとして近いソーシャルインパクトボンドは大きく取り上げられる中で、もっと初歩的な手段でもあるロボアドバイザーでSRIが米国で展開されていることの含意は、コストの安さや製販分離といった分かりやすい側面の議論がつみたてNISAなどで行われている今、次のレベルの議論として注目に値するのではないでしょうか。