ブレイナードFRB理事スピーチに見る制度要望

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11月16日付けでFRBのウェブサイトに公開された、ブレイナード理事のスピーチでは、Fintechが消費者重視の世界をより一歩前に進めることに触れています。

このスピーチの最初から目を引くのは、Fintechが「自動操縦」と近いものである、という捉え方です。それは消費者の意思決定に対して、まずお金の状況の全体像を捉えて、そこからシンプルな選択肢を引き出すこと、例えばとしてNudgeの考え方を引用しています。

そして、この自動操縦の概念に従っていたとしても”however, it is important that they remain in the driver’s seat and have a good handle on what is happening under the hood”即ち「運転席でハンドルを握り、何が起きているのかを知っていることは引き続き大事」と述べています。ロボアドバイザーに任せていたとしても、最終的には自己責任がある、といった考え方は、お金が持つ力自体が、引き続き人生や社会で何らかの制御が必要である旨をみています。

私見ですが、自動車と人間の関係と同様に、人間は多くの金融商品・サービスの根本的な仕組みを知らずとも、その便益を享受する立場にあります。運転免許の試験で、クラッチの細かいメカニズムや、エンジン工学の知識が問われないのと同じように、ある程度は「作る人・運用する人」の専門性と責任に依存するのが金融の世界であり、その信頼が成り立っているからこそ、多くの人により良いリスク管理手段が提供される観点は、改めて重要です。

同スピーチではその上で、現状の米国のクレジットカードで多くの消費者が目先のキャッシュバックと残高にかかる事後的な金利を適切に判断できていないことや、米国のアンバンクト問題の一部が徴収される手数料が予測不可能であることに起因すること、(今や定番統計となった)44%の米国人が400ドル未満の貯蓄しかないこと、に触れます。

上記の問題解決の一端としてアプリのエコシステムがあると述べています。実例としては、当社もその部類に含まれますが、データを収集し、クレンジングし、使いやすいAPIやアプリとして再提供するデータアグリゲーターを挙げており、彼ら自身が開発キットを提供して、さらなる外部の付加価値を呼び込んでいることも述べています。

そして、自動操縦型のサービスでは、例えばPFMサービスが消費者の目標に向けて、自らサービスを取り揃えるパターンの金融行動が行われる、としています。その過程では、AIや機械学習、応用的なデータ分析が行われ、健全なNudgeが行われるとしています。ユーザーのための行動自体は新しいものではなく、古くから検索エンジンが行ってきたものではあるが、挙げられてくるものが広告型のコンテンツであるかに敏感になった我々は、より厳しい目を持っていることにも触れています。PFMサービスは、ボットの形を取ったり、声の形を採るのかもしれませんが、今後も、何が有料広告であるのかを見分ける手段が提供されていくのかを整備していくことも重要、と述べています。

最終的にスピーチではデータアクセスや誤認防止について触れています。それは自動操縦型の金融サービスではアプリ開発社にも何らかの規制が必要なことの再掲といえますし、データへのアクセス権や、誤った送金等を行った場合の対応は極めて重要なトピックです。その対応として、新たなnorm(規範)が作られることが望ましいとしています。その中で、消費者の利便性に向けたFintech事業者と金融機関、規制当局の密連携が必要であると述べており、欧州や日本におけるサードパーティアクセスに対する制度整備と類似の取り組みを求めています。

このスピーチへの筆者の感想ですが、制度的な対応が遅く、イノベーションの早い米国という立ち位置において、FRBの理事がこの温度感で消費者と金融の距離感を表明できることに強い感銘を覚えました。Fintechという言葉はもはや定義の広すぎるテーマとなりつつありますが、ユーザーを真ん中に置いた制度議論の進展において、改めて参考とできる箇所が多いものと考えています。

おまけ読書ご紹介

上記のユーザー自らがサービスを取り揃える経済圏は、インテンショナルエコノミーと呼ばれます。
下記の本はその世界観を代表するものであり、今後のPFMやCtoB型とは何かを考える際には必読です。
インテンション・エコノミー 顧客が支配する経済 (Harvard business school press)

そして、繰り返しのNudgeへの言及。これは今年のスウェーデン国立銀行賞のセイラー教授オマージュに他ならないですね。
お金ノンフィクションの泰斗マイケルルイスの下記著作は行動経済学向けブロマンス小説として、超お薦めです。
かくて行動経済学は生まれり

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