英国のFintech政策において著名な制度としてチャレンジャーバンクがありますが、その取り組みの中でも政府の積極的な銀行設立支援は注目されます。
その政策的な背景は神山[2015] に詳しいですが、金融危機後の対応や、その後のLIBOR金利不正操作を受ける中で、銀行産業における競争促進要請を強く受けたものとなります。
英国の中央銀行のサイト内には、PRAとFCAの共同の取り組みとして、New Bank Start-up Unitというサイトが設立されています。翻訳すれば「新規銀行設立支援局」ともいえるサイト内では、手取り足取り、銀行を設立していくための手順が示されており、年に1-2回は銀行設立に向けた説明会を実施されています。その直近版の資料を見ると、当局からの説明のほか、直近の銀行設立における体験談が述べられており、前提知識のない状態で読めば、個人の資格取得支援のような順を追った内容となっています。
英国のこの取り組みの中でも注目に値するのは、段階的な認可を行っている観点です。モビライゼーションと呼ばれる制度の中において、一部のインフラ業務を中心としたライセンシングを実施した後に、増資と残る体制整備を行うことで、不確実性を段階的に解消しながら、ベンチャー投資を受けられる選択肢を可能としています。具体的には、コーポレートガバナンスやBCP、リスク管理体制などに対しては、未完成の段階においても前段的な認可が得られる形となっています。その上で、12か月の期間内に体制整備を行う形となります。平均的な移行期間は8か月であり、決して長い準備が可能な訳ではありませんが、投資家側から見ればビジネスモデルのテストにおける不確実性を、段階的な増資という手段で低減できるメリットがあります。
このような制度支援のあり方は、その資料の構成(やアドホックにも見える資料の品質)からしても、試行錯誤を経ながらも新しいユーザー体験を通じて、消費者のためになる競争をもたらそうとする意思の表れであるように感じられます。日本では、オーバーバンキングの名の下にこのような選択肢がなかなか議論されないこともあるかもしれませんが、銀行の適切なコストストラクチャーが技術的には変化してきている中、消費者と銀行産業のあり方を考える一助となる内容かと考えています。
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