米国連邦準備制度は8月25日、リアルタイムの決済システム “FedNow”を連邦レベルで構築し、2024年中に実装すると発表しました。
ここ1年振り返ってみても、 “~pay”に代表されるようにBtoCの電子決済は飛躍的に普及しつつあります。個人間の電子決済も手元のスマホから可能となり、銀行に赴くことなく送金が瞬時に完了するサービスも日本で広がっています。
リアルタイムで資金移動する必要性は民間の決済サービスだけでなく、銀行間でも既に高まっています。アメリカでは既に銀行間のリアルタイム決済システムが2017年から民間で運用されており、Bank of Americaなど国内のメガバンクが加盟しています。しかしながら、中小規模の銀行は利益に直結しないとして加入しないケースが多く、全米的に利用させていくべきという趣旨から、連邦準備銀行に決済システムの構築を要請していました。
FRBのブレイナード理事はシステム構築の意義として「長期的なサービス品質の向上と価格低下を実現し、幅広い金融機関が利用できる」と述べています。これにより、中央銀行の決済機能における役割と全米を範囲とするシステムの提供を明確に提示した形となりました。
アメリカでは2017年に “The Clearing House Payments“という民間の決済システムにBank of AmericaやCitibankなど米国の大型銀行が加盟していますが、中小規模の銀行は自行への利益面から見送られるケースも多かったのが実情でした。”FedNow”の利用価格について詳細は公表されていませんが、システムの構築背景から、高額にはならないものとみられています。
“FedNow”の主な特徴としては、24時間リアルタイムの送金可能となる事、2万5000ドル以下の決済に限定されることが挙げられます。米国内の10,000を超える銀行を決済ネットワークで繋ぐことで、給与受け取りや事業者の短期の資金調達時の利息問題などの解消の足がかりになることが、民間企業からも期待されています。しかし課題も多く、例えばGoogleやAmazonなどのハイテク大手企業は“FedNow”を使用するために、銀行免許の取得もしくは連邦議会の承認を得る必要があります。金融業進出を予定する企業も台頭する中、預金業務を担う銀行にのみアクセス権限を付与する事を疑問視する声も聞かれます。
また、既存の決済システムとの相互運用性(インターオペラビリティ)について、ブレイナード理事はその重要性について言及しながらも、新システムに相互運用性が担保されるかについての明言は避けています。FRSの狙いとして、まずは幅広く全米の銀行にネットワークを構築し、利用される事を優先していることが背景にあるとみられています。
End to Endでシステム内部を暗号化する必要性や、適切なセキュリティ整備により、消費者のインターネット上の取引時にパスワードの入力を不要とすべきという意見がみられている中、パブリックコメントの募集終了後にシステムとしての本格的開始を予定しています。
日本でも、様々なフィンテック事業者が新たなイノベーションを模索する中で、銀行間で簡易に安価もしくは無料で送金をできるインフラが構築されることは、喫緊の課題と言えます。米国ではACHが事実上のフィンテック向け送金ネットワークと位置づけられることが多かった中、このようなネットワーク間の競争が生まれることは、より便利なサービスの台頭を可能とするものといえます。